資料

日本弁護士連合会主催

第21回弁護士業務改革シンポジウム

第8分科会

真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方

日時 2019年9月7日(土)14:00~17:00

場所 同志社大学今出川キャンパス「良心館」RY206教室

分科会の記録

※本記録は,2019年9月7日に日本弁護士連合会の主催により開催された第2 1回弁護士業務改革シンポジウムの第8分科会の内容を,登壇者の確認を得てまとめたものです。文中の役職は,いずれもシンポジウム開催当時のものです。無断転載を禁じます。

※第21回弁護士業務改革シンポジウムの基調報告書は,日本弁護士連合会の公式ウェブサイトからダウンロードすることができます。

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-  目  次  -

1  開会挨拶

矢部  耕三  弁護士(第一東京弁護士会会員/ユアサハラ法律特許事務所/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事)

2  基調講演

「経済産業省『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書』(2018年4月公表)とその後の展開について」

桝口    豊  経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長

3  パネルディスカッション

「真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方」

《パネリスト》

桝口    豊  経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長野島 嘉之    三菱商事(株)法務部長

三村まり子  弁護士(第二東京弁護士会会員/西村あさひ法律事務所)

《コーディネーター》

河井 耕治 弁護士(東京弁護士会会員/野村不動産ホールディングス(株)/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事)

4  総括

本間  正浩  弁護士(東京弁護士会会員/日清食品ホールディングス(株)/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会小委員長)

5  当日配布資料

■開会挨拶

矢部  耕三  弁護士(第一東京弁護士会会員/ユアサハラ法律特許事務所/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事)

矢部 それでは,まだおいでの方もおられるところとは存じますけれども,お時間がまいりましたので,第 21 回弁護士業務改革シンポジウム第8分科会を開会させていただきます。

私は,日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会の幹事をしております,第一東京弁護士会所属の矢部でございます。本日は,日本全国からお集まりの会員の皆様をはじめとして多数の皆様においでいただきまして,大変ありがとうございます。私は,日弁連におきまして,「組織内弁護士の諸課題に対応する施策の提言に関するワーキンググループ」副座長や,ひまわりキャリアサポートセンター委員としても,企業内弁護士の課題に対するいろいろな取組のお手伝いをさせていただいております。

本日は「真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方」と題しまして,基調講演に続き,パネルディスカッションの形式で開催させていただきます。基調報告では,先ごろ「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」をまとめられました経済産業省経済産業政策局競争環境整備室の室長でおられる桝口豊さんよりお話を頂戴します。その後,パネルディスカッションに移らせていただきます。パネリストには,桝口さんのほか,長年,企業内法務の石突きにてご活躍の,三菱商事株式会社法務部長でおられる野島嘉之さん,また,最近までグラクソ・スミスクラインにて企業内法務の先頭に立ってこられた,西村あさひ法律事務所の三村まり子弁護士をお迎えして,ご議論を頂戴する予定でおります。コーディネーターは,日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事であり,自らも企業内弁護士として活動しております野村不動産ホールディングスの河井耕治弁護士が務めます。

顧みますと,かつて企業内弁護士の議論は,司法改革の一環としての法曹人口増加や,法曹へのニーズの変化というところから語られることが多かったように思います。しかし,本年4月の時点で,既に 2,400 名の多きにわたる弁護士が企業内において活動しております。かかる現実を見るとき,それぞれの企業内弁護士の方々の業務の状況や,これからの行く末を改めてよく考えなければならないステージに来ているものと思います。その意味において,企業競争力強化と企業内弁護士の関係は,最も本質的なお話と言えましょう。

なお,開会に当たり,何点かご注意いただきたい点について申し述べます。お手持ちの当分科会配布資料をごらんください。緑色の表紙がついているものでございます。その2ページ目にございますように,写真撮影,禁煙,携帯電話等の取扱いに関してご留意いただきたく思います。また,これとともに配布資料のお取扱いについてもご注意いただけますと,ありがたく存じます。また,本分科会終了後,資料末尾にありますような,第8分科会自体についての参加者アンケートにもお答えいただけますと,ありがたく存じます。

本日は,シンポジウム全体に関する別途のアンケートもお渡ししておりますので,この両者とも後ほどご記入いただいて,本会場の回収箱にご投函いただくか,あるいは後ほどファックスにてご送付いただきたく,よろしくお願い申し上げます。

以上をもちまして,簡略ながら,私の開会のご挨拶とさせていただきます。それでは,桝口さん,ご講演をよろしくお願い申し上げます。

◆基調講演「経済産業省『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書』(2018年4月公表)とその後の展開について」

桝口    豊  経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長

桝口 皆さん,こんにちは。ただ今,ご紹介いただきました経済産業省競争環境整備室の桝口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

「真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方」ということで,このたび経済産業省の方で「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」というものを立ち上げ,平成 30 年の4月に報告書を取りまとめたところでございます。その報告書につきましては,まだ足りないところがあるということもございまして,さらに研究会を開き,間もなく公表するということでございます。本日につきましては,平成 30 年4月に取りまとめた報告書の内容と,その後の展開につきまして,エッセンスをお話しさせていただきたいと思っております。

なぜ,経済産業省が法務機能に着目したのかということでございますけれども,皆様ご承知のとおり,日本企業を取り巻く経営環境が大きく変化したということでございます。

1つといたしましては,コンプライアンスの問題があります。例えば近年につきましても,製造業のデータ改ざんが起こりましたけれども,そのときの企業のレピュテーションのリスクが増大しているわけですが,いろいろな問題が起こったときに,法律問題をクリアするということは当然ですけれども,その企業が的確にきちんと対応したかどうかということが世間的にもとても重要だということで,その企業の行動が社会的に受け入れられるかどうかという視点が企業の,特に初動のアクションにおいては必要なのではないかと思っております。ご承知のとおり,SNSが普及しており,拡散するスピードも速いということもありますので,より慎重であることはもちろんですが,的確な対応が必要だということです。

大きく変化した理由の2つ目ですけれども,やはりグローバル化の問題が言えるかと思っております。最近,日本は少子高齢化でございますので,国内の需要も残念ながら減少しているという状況もあります。海外に行って稼いでくるということをやっている企業が多いと思っていますけれども,企業ごとに,当然ながら,進出する国は異なりますので,企業ごとに関心のある国は異なるということになりますが,諸外国の法制度につきましてはどんどん新しくなってきております。それは先進国もそうですし,新興国もそうです。特に,新興国につきましては,日本で言えば独占禁止法のような競争法の執行が強化される傾向にございますので,何か問題があれば多額の制裁金を科されるということでございます。また,M&Aが結構盛んに行われておりますけれども,買収後に買収した会社のガバナンスの問題が発覚した場合につきましては,当然ながら,買収した側の経営に影響を及ぼすということだと思っています。

それから,日本を取り巻く経営環境の大きく変化した例の1つといたしましては,やはりイノベーションの問題があるかと思っておりまして,技術がどんどん発達しておりますけれども,それに伴いまして技術の壁は低くなっており,異業種への参入や,もしくは再編のようなものが進んでいるということでございます。新しい技術,例えばビッグデータを活用した新たなビジネスの創出をするような場合につきましては,法が整備されていないような分野や市場に進出することが多いので,そのようなとき,やはり企業が直面するリーガルリスクやリーガルイシューというものがどんどん多様化,複雑化しているのではないかと思っております。経済産業省といたしましても,企業の競争力,ひいては国の競争力につながりますけれども,競争力の維持,それから強化の観点から,再度,法務機能を捉え直してみる必要性があるのではないかということで,この法務機能に着目いたしまして,研究会を立ち上げて,それで報告書を出したということでございます。

前置きはそのぐらいで,報告書のエッセンスをご説明させていただきたいと思っております。資料は白黒で配布させていただいておりますけれども,画面はカラーになっておりますので,見比べながらお聞きいただければと思っております。

まず,研究会の中で,法務機能は何かといったことを,改めて定義といいますか,位置付けさせていただきました。「企業における法務機能とは」と書いていますけれども,「企業が健全かつ持続的に成長するよう,法的支援を行うことである」と。これは読めば「まあ,そうだよね」と思われると思います。「持続的に成長する」ということは,「一時期にもうかればいいや」ということではないと思っていますので,持続的に成長するよう,法的支援を行うということでございます。

法務機能の中につきましては,大きく「企業のガーディアンとしての機能」,それから「ビジネスのパートナーとしての機能」と,経済産業省の研究会の中では位置付けをさせていただきました。

企業のガーディアンとしての機能ですけれども,企業価値を守る観点から,法的リスク管理のために経営や他部門との意思決定に関与することが重要だと位置付けさせていただきまして,必要に応じて,事業や業務執行の内容に変更を加え,場合によっては意思決定を中止させたり,延期させることによって,会社の権利,財産,評判などを守る機能という位置付けで,これを読めば,「あ,そうだよね」というような感じではないかと思っております。

もう1つは,ビジネスのパートナーとしての機能ということでございまして,企業価値を最大化する観点から,会社の事業や業務執行を適正,円滑,戦略的,効果的に実施できるような機能。ここも,法務機能としては,今の日本の企業が置かれている立場としてはとても重要なのではないかと位置付けさせております。

このガーディアンとしての機能とパートナーとしての機能,これが両方必要なのですというように位置付けさせていただいております。本日の聴衆者の中には,インハウスローヤーの方もおられれば,もしくはその法務部門でご活躍されている方,もしくは弁護士事務所で働いておられる方,その中でも企業のため,例えば顧問として働いておられるような弁護士の方などがいらっしゃるかと思いますけれども,ぜひ,今,経済産業省がどのようなところに着目していて,企業としてはどのようなところに力を入れていく必要性があるのかというところを今日は酌み取っていただければと思っております。このガーディアンとしての機能,それからパートナーとしての機能をあわせて,企業価値の向上のためのナビゲーター役であるというように,報告書の中では位置付けさせていただいているところでございます。

次のページを見ていただきたいのですが,ここの中では,報告書の中でトピックとして取り上げたところでございます。日本の企業の法務と,アメリカの企業の法務,2,500 名以上という大企業の会社を比較したところでございまして,平成 29 年度に調べた調査結果でございます。日本の企業は 255 社ということで,そのうちの 6割が製造業,アメリカにつきましては4割が金融業ということで,対象が異なるというところに注意する必要性がありますが,どのようなところに差があるのかということを見ていただくと,すごく興味深いかなと思っております。

1つ目につきましては,法務部門の規模とインハウスローヤーの割合ということ でございまして,日本は大体,約 20 名が法務部門におられて,その中のインハウス の割合につきましては 17%ぐらいだということです。逆にアメリカにつきましては, 40 から 80 名程度,約7割がインハウスローヤーで構成されているということでご ざいます。これは,日本の資格取得がなかなか難しいという様々なことが反映され ているのかなと思っていますけれども,このような事実関係があります。

それから2つ目は,ジェネラルカウンセル(GC),それからチーフリーガルオフィサー(CLO)の設置ということでございます。最近,日本でもそのような,G CやCLOを設置しているような会社が増えておりますが,アメリカにおきましては,GCかCLOを置いているような企業が多いということが実態としてあります。ただ,日本については,まだ普及が遅れているのではないかと思っています。われわれが,定義ではありませんけれども,このGC,CLOとしては,名称は企業ごとに異なるのですけれども,機能として見ていまして,まず1つが法務部門をしっかり統括しているということと,それから取締役や執行役等の高い位置のポジションで,経営陣,例えば取締役会や執行役会,経営会議など,様々ありますけれども,実質的な経営意思決定機関の一員として職責を果たしている方々をGC,それから CLOと考えているところでございます。

3つ目ですけれども,経営陣から意見・判断を求められる頻度が,日本については月数回が 53%,中には「年1回しか意見を求められていない」という法務部門もおりまして,逆にアメリカにつきましては,毎日と週数回を合わせて約 70%ということでございまして,日本の法務部門の経営の中に求められる位置というものがこれでわかるような感じがするという内容になってございます。

あとは,重要交渉への参加というようなことについて,常時参加しているのはアメリカが8割超,日本については約半数弱というような結果になってございます。これは大企業の調査結果になりますけれども,その事実の一端をあらわしているのではないかと感じるところでございます。

次のページでは,今,法務機能が求められる視点といいますか,基本視座ということです。端的に言いますと,先ほど社会状況,企業を取り巻く環境により様々な問題が生じていますので,リーガルイシューをどのように捉えていくかということが,これからの企業の健全かつ持続的な成長の成否を決めると考えています。

法務機能につきましては,当然ながら,リーガルリスクを回避するということだけではなくて,ルールの捉え方,視点を変えるということにより新たなビジネスの創出や市場の獲得が可能となるということがありますので,経営と法務が一体となった戦略的な経営を実現することが不可欠であると考えます。ガーディアン的な機能だけではなくて,先ほど申し上げましたパートナー的な役割が今の世の中にはとても重要になっているのではないかということでございます。

ビジョン(社会に提示できる新しい価値),それからロジック(現行法において一定の解釈で成立し得るか)というようなことを兼ね備えて,ビジネスに対する意識を持って行動することが,今の法務機能に求められているのではないかと,結論としてはこのような形になっています。

これからもう少し細かく分析をさせていただきまして,なぜそのようなことが必要なのかというところをお話しさせていただきたいと思っています。先ほどのガーディアン機能とパートナー機能ですけれども,2つ機能がありますという話をしましたが,表裏一体の関係にありますので,「どちらが先に発揮されるものである」と単純に切り分けるものではないと考えてございます。

次のページでは,これから,ガーディアン機能と先ほどのパートナー機能をもう少し分解して,分析させていただきました。

まず,ガーディアン機能ですけれども,「最後の砦」として企業の良心となることというように考えています。「合法かどうか」の判断だけでなくて,先ほどレピュテーションリスクの話をお話しさせていただきましたけれども,その企業の行動が社会的に受け入れられているというような視点で「正しいかどうか」を今この世の中で判断することが求められているのではないかということでございます。「正しいかどうか」ということは,現行の法令に合っているかということはもちろん必要ですけれども,それだけではなくて中長期的な目線で判断することも必要だということです。

2つ目は,コンプライアンスルールの策定と業務プロセスの構築,徹底ということでございます。レギュレーション,規制,法律,法令につきましては日々変わっていますので,そこをしっかりウオッチしていただきまして,自社のビジネスに落とし込んで,ルールや契約の最適化を図るということです。それから,コンプライアンス活動につきましては,法務部門だけで担うということではありませんで,他の事業部門,それからビジネスリーダーのコミットメントも必要と考えています。あとは,契約による自社のコントロールや,自社の損害を最小限に抑えるための行動も,ガーディアン機能の中に入っているのではないかと考えてございます。 次のページを見ていただきたいのですが,次のページにつきましてはパートナー機能ということで,具体的にご説明させていただきますと,1つ目につきましては,「ビジネスの視点に基づいたアドバイスと提案」と考えておりまして,重要契約の交渉や,新規プロジェクトへの早い段階から法務部門が参画する必要性があって,リーガルイシューの把握や具体的な解決策の提案というようなことが必要です。法令の観点だけで,法令に違反しているかどうかということではなくて,ビジネスジャッジに対する,むしろその積極的な提案が求められていると考えております。

2つ目は「ファシリテーターとしての行動」ということですけれども,新規プロジェクト等が必要な場面で,ささいな例ですけれども,スケジュール把握のようなものや,社内外のリソースを確保するということは,相手側に任せるのではなくて,法務部門の機能として,しっかり取り組んでいくことが必要だと考えています。

3つ目は「ビジョンとロジックを携えた行動」ということで,先ほどもお話ししましたけれども,法律や,法律の解釈,判例もそうですけれども,時代とともに変化してまいりますので,「社会に提示できるような新しい価値」と,それからロジック,現行法において一定の解釈で成立しているかどうかを併走させて,まだ成立していないということであれば,「こういう解釈をすれば,合法である」というように考えて,「グレーゾーン」でのビジネスの拡大を志向することができると考えています。このグレーゾーンについては,法令に違反しないぎりぎりのところということではなくて,法令がまだ規定されていない,もしくは判例がまだ固まっていないというような新しい分野という意味で,ビジネスを行う場合につきましては,しっかりビジョンやロジックを組み立てて,事業部がやりたいと言ったことを支援していくようなことをしっかり法務部門としてもやっていく必要性があるのですというような話でございます。

最後につきましては,法令,契約に基づいた正当な主張を積極的に,受け身ということではなくて,しっかり主張していきますということや,レピュテーションリスクに対しては毅然とした対応が必要なのではないかということを書かせていただいてございます。

次のページをお開きください。今お話をさせていただきましたけれども,今の企業法務をめぐるような課題がどのようなものなのかということを整理したものがこのページでございます。3つ,書かせていただいています。1つは,経営層,事業部門が,法務部門を単なるコストの1つと認識しているような傾向があるのではないかということです。2つ目は,法務部門の責任者が経営に関与していない等,組織上,経営と法務がリンクしていないのではないかという問題。それから,先ほど申し上げましたガーディアン機能とパートナー機能ということですけれども,それぞれの機能を担うようなスキルを持ったプロフェッショナル人材が不足しているのではないかという課題が企業の中にあるというようにわれわれは認識しており,それを解決するためにはどのようなことをやっていくかというところを書かせていただいています。

1つは,経営層や事業部門におきます発想の転換が必要なのではないかと考えていまして,経営層がしっかり法務機能を有効的に活用する発想が必要なのではないかということです。2つ目につきましては,リスクは排除するだけではなくてコントロールしていくものだと認識する必要性があるということ。それから,リスクの判断に当たりましては,経営層・事業部門と法務部門が一体となって,リスクテイク・マネジメントを構築する必要性があるのではないかと。そのようにしていくためには,全社的な法的リテラシーを高める支援も必要であると考えております。

2つ目につきましては,組織・オペレーションの整備をどうしていくかということです。一言で言えば,経営と法務の一体となった強固な経営戦略の実現ということで,1つの例としましては,GCやCLOのようなものをしっかり設置して,法律のプロフェッショナルが経営陣の一員となることで,経営と法務が一体となって,強固な経営戦略の構築が実現可能になってくるのではないかということでございます。

あとの2つにつきましては具体的な例でございまして,事業部門が適切に法務部門にもレポートラインをしっかり報告するような体制を組むなど,法的なリスクを勘案した決裁基準のようなことをしっかり規定して,法務部門がしっかり決裁できるというような基準を設けた方がいいのではないかということです。

3つ目は,人材に対する投資ということで,最近いろいろ外部弁護士の方,インハウスローヤーの方など,いろいろ法務人材も多様になっていますけれども,いろいろな経験を積んだような方を,中途採用も含めて,活用していく必要性があるのではないかというようなことを報告書でまとめさせていただいております。法律事務所からの出向など,外部からの人材の登用や,まさに外部弁護士事務所の活用というようなことも,今この課題を解決するためには,やっていかなければならないことだと位置付けさせていただいております。

次のページは,これは結論を書かせていただいておりまして,在り方を整理しましたということです。「強化していくためにはさまざまなアプローチがあります」ということで,具体的にどのように法務機能を高めていくか,実装していくかということにつきましては,各社それぞれのビジョンがありますから,そのビジョンに基づいて,あるべきモデルを常に模索・アップデートしていくことが重要であるということ。それから,日本においては,必ずしもアメリカをまねする必要性はないのだけれども,自社流の法務機能の在り方を個々の企業が検討して,実装していくことが期待されるということで,少し抽象的な結論になっているものですから,「見えてきた課題」ということで,次のページに書かせていただいてございます。

どのように社内に有効な法務機能を実装するかということや,法務人材の育成・活用につきましてはどのようにしていけばいいのかというようなところが,この報告書を出した後に,様々な企業の方と意見交換をさせていただいたのですが,「その辺がちょっとよく分からないので,もうちょっと深掘りをする必要性があるのではないか」というようなご意見もいただきまして,平成 30 年の4月に報告書は取りまとめましたけれども,さらに研究会を立ち上げまして,深堀りをして検討したということでございます。

その次のページをお開きください。この 10 ページ目につきましては,まさにこれから報告書を公表させていただこうかと思っているところの内容です。

1つ目といたしましては,事業(価値)の創造。これは,新しい事業の創造や,企業価値の創造,そのようなことがやはり法務機能には求められていますので,そのような場合について,法務機能の在り方はどのような法務機能があるのかというところを深堀りして,初めに法務機能の定義ということで位置付けたいと思っていたのですが,定義と言いますと,取りまとめも難しいということもありまして,法務機能の在り方のメッセージだということで,きちんとした定義ではなくて,少しふんわりしたような形で書かせていただいています。「企業の法務機能を担う者は,法務機能に含まれる3つの機能を継続的に発揮して,それで社内外の関係者からの期待を意識し,法的素養を活かした広義のコミュニケーションを通じて,健全で持続的な価値を共創する」というように位置付けをさせていただいたところでございます。

先ほどガーディアン機能とパートナー機能という2つの機能があるというお話をさせていただきましたけれども,パートナー機能の中に,もう少し分解させていただきまして,クリエーションとナビゲーションという2つの機能に分けさせていただき,それで3つの機能が必要とこの新しい報告書の中では位置付けさせていただいてございます。

「3つの機能を継続的に発揮して,健全で持続的な」ということは,先ほどのお話の「その場限りでというわけではない」ということです。共創するということは,まさに法務部門だけで価値を創造していくということではなくて,様々な事業部門やその他の部門,経営陣と一緒になって新しい価値を創造していくということであり,「共創する」という表現にさせていただいてございます。

3つの機能につきましては,後で説明をさせていただきますけれども,このオレンジの部分が今言った意義や目的でございまして,この紫の部分が手段だと考えてございます。社内外の関係者とは,企業を取り巻く周りの方々,ステークホルダーのことを社内外の関係者と考えており,例えば株主や取引先,消費者,所管官庁の行政というようなところが社内外の関係者だと思っております。

「期待を意識して」と書いていますけれども,例えば,これは取引先との期待であれば,契約をまとめていくということが取引先の期待だと考えてございます。取引先との契約交渉につきましては,当然といいますか,自社の利益を優先するという考えがあるわけですけれども,それだけだと,契約を取りまとめることができない場面もありますので,相手方が納得できる解決策をつくり出すというようなことが,期待に応えるということだと思っております。

リピュテーションリスクにつきましては,社会に対するリピュテーションリスクということだと思っていまして,単に契約や法令を遵守するということではなくて,社会的に受容されるような範囲を見定めるというようなことが,期待に応えるということだと思っております。現在の法務部門につきましては,様々な関係者の期待と向き合うということになるのではないかと思っております。期待は当然ながら,受け止めた上で,その企業が創造しようとしている自社の事業の価値を考慮して,解決策をつくり出すということだと思っていますけれども,それが期待に応えるということではないかと思っています。「法的素養を活かして」とは,これはリーガルマインドを持ってというような意味で,「広義のコミュニケーションを通じて」とは,これは単に,コミュニケーションと言いますと,「コミュニケーションを取る」という言葉に代表されるように,おしゃべりをするということではなくて,関係者ときちんと調整をしてまとめ上げるというような意味を込めまして,「広義のコミュニケーションを通じて」と表現しております。自ら積極的に主体的に関係者とコミュニケーションを取って,相反する利益を調整していくということかと思ってございます。

法務部門,これはインハウスの弁護士も含めてですけれども,法務部門がどこまでこの利害関係者と調整を行うかということにつきましては,言いかえれば,経営陣に対して,どこまで踏み込んで提言を行うかということにもかかっているのですけれども,まさに調整をどこまで行うかということが,現在のこの世の中の,企業の競争力の源泉の1つではないかと考えているところでございます。

次のページをお開きください。ここで先ほどの,3つの機能に細分化させていただきましたという話をさせていただきましたけれども,その3つの機能を詳細にご説明をさせていただくというページでございます。

クリエーション機能というのは,この枠を広げる機能と意味付けさせております。現行のルールや解釈を分析して,適切に解釈することで,当該ルールや解釈が予定していないような領域や事業に踏み込める領域を広げたり,ルールを新たに構築・変更するという内容でございます。これにつきましては,冒頭にお話ししたとおり,新しい技術の分野において,まだルールや解釈が予定されていないような分野が多々ありますので,そのような分野に対して,例えば既存のルールや経緯,時代の変化を踏まえて,当該ルールが予定していなかった領域が,どこに線を引けるのかということを検討して,経営や事業のやりたいようなことと,確実に実現できるような範囲を比べて,確実に実現可能な範囲を最大化していくような機能をクリエーション機能と考えております。まだルールが定まっていないような分野に,経営や事業部がやりたい,踏み込んでいきたいというような議論があった場合におきまして,「確実に実施可能な範囲はこれだけだと法令上では見ることができるけれども,それが本当なのかどうか。まだ法令がないため,こういうような解釈をすれば実現可能ではないか」という,確実に実現可能な範囲を最大化していくような機能だと考えています。

ナビゲーションとは,この枠内での最大化を図る機能ということですけれども,事業と経営に寄り添って,リスクの分析や低減策などの提示を通じて,積極的に戦略を提案するということでございます。これは,経営や事業が「やりたい」と言ったことをよく酌み取っていただいて,この経営や事業のやりたいことを最大化していくようなイメージです。そのような機能が今の法務部門の中に求められているのではないかということです。経営陣や事業部門につきましては,ルールを守るというような気持ちが当然ながらあります。しかし,ルールを守ろうとするあまり,委縮してしまうこともありますので,法務機能がしっかりそこはサポートしていただいて,「こういうような考え方をすれば,法的にも解決するのではないか」ということをこの雲のようなイラストの部分を最大化させていくということで表現しております。

最後はガーディアンですけれども,ここにつきましては,経営や事業が絶対やりたいと言ったとしても,違反行為であれば,できないことになるので,そのようなところをそぎ落としていくような機能があるのではないかと思っております。

この3つの機能が必要だということで,次のページをお開きください。これは, 3つの機能のイメージを書かせていただきまして,いずれも,3つの機能が必ず社内になければならないというような意味を込めております。新規事業開発に力点を置くような企業につきましては,当然ながら,クリエーションの機能がとても大きいと思っていますし,逆に,安定した企業につきましてはガーディアン的な機能,レピュテーションリスクに対する機能のようなことが重視されるのではないかと思っています。この3つのバランスにつきましては,企業の経営が何を目指すかによって決めていくものではないかと思っていまして,経営陣とのコミュニケーションがとても大切ではないかということをあらわしてございます。

次のページをごらんください。これにつきましては,先ほどの社内外のステークホルダーのような関係者と利害を調整していくということでございまして,「現状」と「これから」と書いています。今の法務部門につきましては,「社内の誰かから持ち込まれた仕事に没頭する」「社外と直接対話することはない」,そのような法務部門が結構多いと言われておりますけれども,それをどんどん社外と対話していく,それから,時には直接対話をして,自社の考え方を転換していくことが必要なのではないかということを表現しております。

ここは,どのようにこの機能を実装していくかということを説明させていただきます。2つ大きくはあるのではないかと思っています。1つはトップダウン型ということで,外部からプロフェッショナルを招聘して,GCやCLOに就かせる方法。トップダウンは大胆な改革を行うことができるのですけれども,当然ながら,経営の強いコミットメントが必要だと考えております。2つ目はボトムアップ型で,法務部門の発意によって行うことが可能です。ただし,関係者にその必要を認めてもらいながら,関係者の信頼を得られるかどうかがポイントだと思っています。これは,どちらがすぐれているということではなくて,企業が置かれている状況によって選択すべきだということだと思ってございます。

次のページでは,実際にボトムアップ式で取り組んでいくというのなら,PDC Aのようなイメージですけれども,まず,今の法務部門がどのような状況なのか現状把握をして,その現状把握に基づいて方針を決定して,それを社内,それから経営陣に開示して,なおかつリソースの強化,法務部門の強化なり,その体制の整備をして,法務部門以外の部門にサービスを提供して,さらにその結果や方針の評価を行い,ぐるぐる回していくようなやり方がとても重要なのではないかということを表現させていただいてございます。

もう1つは,次のページの人材のところでございます。人材のポイントにつきましては,求められる機能が変わる中で,スキルやマインドセットのミスマッチが発生しているということで,これは今の法務人材や,インハウスローヤーの方々の質が悪いなどということではなくて,マインドセットを変えていくことが必要だというような意味合いで書いてございます。

それをどのようにすればいいのかというところを次のページで書かせていただいていまして,具体的な育成・獲得策例と書いていますけれども,まずは企業の側が,どのようなポストや業種にどのような人材を求めるかということを明示する必要性がある。多様なキャリアパスの受入れ・提示が必要なのではないかと考えています。現在はこれですが,将来的にはこのような法務部門の人材の育成・獲得をしてい くべきではないかと考えております。1つは「法務部」の枠に囚われないキャリアパスを設計し,社全体の法務機能を向上させる行為ということでございます。これにつきましては,今までは,法務部門につきましては専門性の高い閉じた世界に置かれているのではないかと考えております。法務担当管理職につきましては,優秀な法務部員のポストだと見られているような場合が多いのですけれども,それだけではなくて,法務につきましては,専門性が要求される1つの機能だけだということですし,法務担当管理職については,高い専門性をもって事業をサポートできるようなポスト。法務部門の中でも,高いスキルを持つ方につきましては,当然ながら,その法務の中のプロフェッショナルとしてやっていけるということだけではなくて,法務部員の中でも事業マインドを持っている方については,他の部門に行く場合もあるかと思いますし,人事交流をさせていくということが,今求められる法務機能に合わせた人材育成のやり方ではないのかというようなことを考えていまして,そこを幾つか例示で書かせていただいています。

また,法務にとどまらない広範な知見と専門性・マネジメントスキルを兼ね備えた人材は,ますます経営陣として活躍していく必要性があるのだということです。それから,事業の最前線で生かせるフットワークを持つ方については,当然ながら,事業に近い仕事。法務部門の中で深い専門領域を極めたエキスパートにつきましては,エキスパートやプロフェッショナルとして,引き続き法的検討を支える仕事ですが,他の事業部門に行って仕事をするというやり方もあるのではないかと考えてございます。

次のページは,先ほどの様々明示をしていく必要性があるということですけれども,必要なスキルやマインドセットをしっかり企業が示すことが必要なのではないかということを表現しています。

その次のページ,最後になりますけれども,これは法務部門の方に対するメッセージでもあるのですが,経営感覚や事業マインドを体得することが必要ですけれども,やはりそれは事業の現場に触れることが必要なのではないかと考えております。法務の外に出る機会をつくることが有効だと考えていまして,これは経営部門の中のジュニア層,シニア層,それから簡単な方法,難しい方法というように分けていますけれども,経営会議に参加したり,他の部門との併任・兼務をしたり,他部門・子会社への出向など,企業によっては副業・兼業も認められている場合もありますので,事業の現場に触れるということが,今,求められていることなのではないかと考えております。

以上が,新たに研究会で検討し,報告書の中で述べられているエッセンスだと考えております。経済産業省としては,このような考え方を持った法務部門を実現していきたいと考えてございますので,ぜひインハウスローヤーの方々,それから企業を支える弁護士事務所の弁護士の方,企業の法務部門に在籍の方につきましては,ご参考にしながら,自分の立ち位置,役割をぜひご検討していただければと思っているところでございます。

長くなりましたけれども,以上でございます。

河井 ありがとうございました。それでは,ただ今よりパネルディスカッションの準備をいたします。皆様におかれましては,ご着席のまま,しばらくお待ちくださいますようお願い申し上げます。

若干事務連絡をさせていただきます。本日配布している資料の最終ページにこの分科会のアンケートがついておりますので,よろしければ,ぜひ御記入いただいて,ご提出をお願いします。それからもう1枚お配りしております,本日の全体のアンケートの方も,ご協力をお願いします。

(休憩)

◆パネルディスカッション

「真の企業競争力の強化に向けた企業内外の弁護士実務の在り方」

《パネリスト》

桝口    豊  経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長野島 嘉之   三菱商事(株)法務部長

三村まり子  弁護士(第二東京弁護士会会員/西村あさひ法律事務所)

《コーディネーター》

河井  耕治  弁護士(東京弁護士会会員/野村不動産ホールディングス(株)/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事)

河井 それでは,引き続きまして,パネルディスカッションに進ませていただきたいと思います。パネリストのご紹介をさせていただきます。まず,皆様から向かって左側から,先ほどお話をいただきました経済産業省経済産業政策局競争環境整備室長,桝口豊さんです。

桝口  よろしくお願いいたします。

河井 それから,2番目の方は,三菱商事株式会社法務部長でニューヨーク州弁護士の野島嘉之さん。

野島  よろしくお願いします。

河井 それから,こちらは,経済産業省の国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会のメンバーで,人材ワーキンググループの座長も務めていらっしゃいます。また,各種の著名企業の取締役あるいは法務担当役員,それからカウンセルなどを歴任された三村まり子弁護士でございます。

三村  よろしくお願いいたします。

河井  進行は私,河井が務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。 それでは,パネルディスカッションとしまして,「真の企業競争力の強化に向けた

企業内外の弁護士実務の在り方」ということで,パネリストの皆さんとともにディスカッションをさせていただきたいと思います。

最初に,本シンポジウムの基調報告書の 219 ページ以下に,当分科会の基調報告がございます。こちらは,日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会座長で,弁護士の本間正浩さんが執筆されたもので,世界各国の企業内法務の在り方に関して,非常に精緻な分析をしていただいております。本日はこれについての口頭報告はございませんが,ぜひお読みいただいて,皆さんの参考にしていただければと思います。

それでは,このような基調報告があるというところも踏まえて,お話を進めさせていただきたいと思います。

まずは,実際に日本企業の中でも非常に最先端を行かれている法務機能を実装し,また,人材育成に取り組んでおられるということで,三菱商事株式会社の法務部長でいらっしゃいます野島嘉之さんから,先ほどの桝口さんのお話も踏まえたところで,実際のご経験,企業の中の実情をお話しいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

野島 三菱商事の野島でございます。ただ今,過分なご紹介を賜りましたけれども,一実例として,弊社の法務部の機能,及び実際の運用についてご紹介させていただきたいと思います。前のスライドとお手元の資料,どちらでもごらんください。

まず,弊社の法務機能のお話をさせていただくに当たって,弊社がどのような会社かをごく簡単にご紹介したいと思います。もうご案内の向きもあるかと思いますけれども,ごらんのような営業グループ構成になっておりまして,総合商社として,いろいろなことをやっております。

一番上の天然ガスグループを例に取りますと,火力発電に使われるような天然ガスを,海外のブルネイ,マレーシア,インドネシア,近くではサハリンなどといったところにおいて,外国企業の資源メジャーと言われるようなところと一緒に開発して液化して持ってくるようなビジネスが1つの例です。総合素材グループと言われるところは,鉄鋼製品を販売していたり,石油・化学グループは,原油を材料とするような原料を使って,石油製品を海外でつくって,それをオフテイクして,日本や海外に売却するというビジネスをやっています。金属資源グループにおいては,鉄鉱石,石炭や銅といった原料を,海外の権益を取得して,そこで採掘して,日本に持ってくることをやっています。あるいは,産業インフラグループであれば,最近,少し前に新聞でも報道されましたが,エンジニアリング会社も傘下に抱えておりますが,そこでは,資源関連をはじめとしたプラントエンジニアリング・建設事業などをやっていたりします。自動車・モビリティの場合には,三菱自動車やいすゞの乗用車・トラックの販売及び販売金融をやっていたりしますし,食品産業であれば,穀物・食肉,あるいは繊維でユニクロさんのような企業とお付き合いもさせていただいています。コンシューマーであれば,コンビニのローソンやケンタッキーなども傘下に抱えておりまして,そのような外食産業やコンビニエンス事業もやっている。電力ソリューションにおいては,電力事業です。日本ですと,いわゆる電力会社からの電力供給がメインですけれども,特に欧米においては,独立系での売電事業なども歴史的にやっていますので,そのようなところにプロジェクトファイナンス的な金融を付けて,電力を売る売電事業をやっていたり,それをまた日本で展開しようとしていたり,あるいは,再生エネルギーといわれる風力・太陽光(発電)などをやっていたり,最後の複合都市開発では,文字どおり都市開発を手がけようとしている。

このようなことをやっている会社です。そのような意味で,本邦及び海外のいろいろなところで,いろいろなことをやっているので,必然的に,われわれ法務部が手がける内容も多種多様といいますか,地域的にも内容的にも,バリエーションが相当あることになります。

その次のページですけれども,法務部門の歴史について簡単にご紹介しますと,法務機能自体は,最初の始まりは総務部でした。総務部から分化したという形です。日本企業の中では,総合商社は,今申し上げたような海外との付き合いが多いということで,法務的な作業は古くから必要性があったわけですけれども,在東京系の総合商社だと,総務部から分離している会社が多くて,在関西だと,審査部から分離している法務部さんが多い。理由はよく分かりませんけれども,求められる機能が少し違ったのかもしれません。いずれにしましても,私が入社する1年前,1987年に法務室から法務部になりまして,私が入社したときは,総勢 30 人くらいの部でしたけれども,今は,事務的な仕事をする人も入れると,東京に 100 人くらいの部になっている状況です。

先ほどのお話にもありましたコンプライアンス機能も法務部の中で抱えていますが,一時期,法務部とコンプライアンス部が別々になった時期もありました。時代の要請で,コンプライアンスの重要性が認識された結果だと思いますが,重複する業務分野が多かったため,効率的なオペレーションの必要性から再統合した経緯があります。今年から,「ロジスティクス総括部」という,少し分かりにくい名前ですけれども,貿易管理や安全保障対応を担当していた部があったのですけれども,そこの機能も法務部に統合されたということになります。

次のスライドもあわせてごらんください。右下の貿易手続管理室と安全保障貿易管理室の2つが,この4月から法務部に来たセクションです。最近の国際情勢を見ると,安全保障管理は法的な部分の色彩が強まっている。つまり,単なる関税などだけではなく,いわゆる米国による輸出管理及び制裁が重要になってきています。イラン,ベネズエラ,ロシア,あるいは中国,そして,ファーウェイの問題で,どのような態勢を取ればよいのか,どのようなことを法的に満足すれば,アメリカの制裁を受けないのかという,多分に法的な色彩が強くなってきていることもあって,貿易管理や安全保障が法務部の所管になったということになります。

法務部の組織図を今ごらんいただいているわけですけれども,私も,入社が 1988年と申しましたが,それ以来,ほとんどを法務部で過ごしています。最初に法務へ入社して,5,6年たって,アメリカのロースクールに留学させてもらい,アメリカのバーを受けて,資格を取って,実務研修も少しやって,日本に戻ってきて,今度は駐在でまた同じニューヨークに行って4年少し,これは米国三菱商事の法務で,駐在員として働きました。

それで,戻ってきて,日本の一般の会社で言う課長,「チームリーダー」と弊社では呼んでいるのですけれども,チームリーダーになって,何年かやって,それで,トータルを 20 年くらい過ごした後,総務部に異動して,3年くらい,株主総会や取締役会を担当しました。その当時は,ガバナンスについて,「社外役員のあるべき比率はどの程度か」あるいは「コーポレートガバナンスをどうしていくべきか」「委員会型ではないけれども,任意の位置付けとしての委員会をどう機能させていくべきか」といった議論をしておりました。10 年前くらいでしょうか。

その後,当時「環境・CSR推進部」と言っていた部の部長に異動しました。ここは「寝耳に水」といいますか,全く縁がないセクションで,何をやっているかさえ,よく分からなかったのですけれども,そこでは,今で言うサステイナビリティと,社会貢献と,当時は 2011 年の後でしたから,復興支援,この3つをやりました。復興支援では,三菱商事復興支援財団をつくって,そこから被災企業に対して投 融資という形で支援させていただいた。これは寄附ではなくて,あえて投融資という,緊張感を持ったお金,返済義務があるお金を出させていただくことで,「より自立的な経営を」という考えで支援をさせていただいたのですけれども,そのようなことをやりました。社会貢献では,一人親母子家庭の支援のために 40 年続けている一泊二日の「母と子の自然教室」といった取組みや,今で言う「パラスポーツの支援をどうしようか」というようなことを考えて,車椅子ラグビーの支援を決めたりもしました。

サステイナビリティの方は,まだパリ協定の前ですし,何をしたらいいか手探りで,シェルなど欧米先進企業の取組みを研究することから始め,地球温暖化との関係で,弊社も多く保有している石油・ガスなどのいわゆる化石燃料資産について,ストランデッド・アセット(Stranded Asset)という言葉,今は「座礁資産」と訳されていますけれども,そのようなことが問題意識としてあるのだということを学び,弊社の経営計画にどのように反映するべきか,というような検討をしていました。もっとも,時代が追いついておらず,中々社内でも理解を得るのに苦労をしました。そのような 6 年間を経て,3年半前くらいに法務部に戻ってきました。

以上のような経歴ですが,私は,入社のときには「中東に行って石油を掘ります」と言って営業希望で入社したものの,配属が法務部で,「何をやるのだろう」と,そのときは思ったのですけれども,結果的に,すごくおもしろくて,「配属されてよかった」と今では思っています。また,法務で 20 年過ごした後,総務部に異動して,会社全体の立場で,会社のガバナンスの在り方などを考えることは大変よい機会になりましたし,環境・CSR部に行ってサステイナビリティのようなことを考えることも,中長期の経営の方向性を考える意味で大変いい経験となりました。社会貢献なども,会社の社会との関わり方を考える上で大変良かったので,企業法務を担当するうえでも,企業内で異動して様々な経験を積むことは,ものの見方を広げる意味で,大変有益だと思います。結果的に,今はやりの「ESG」を一通り経験させていただいたということになります。

すみません,話は,あちらに行ったり,こちらに行ったりしましたが,弊社の法務部の今の組織体制はこのようになっておりまして,それぞれ営業グループ別に担当するような態勢になっています。会社さんによっては,地域別の態勢を取っていらっしゃるところもありますが,やはり弊社の場合にはグループ経営ですので,地域別だと,その地域特有のリーガルイシューについては詳しくなれますが,グループの経営との会話がなかなか難しく,「俺のグループはこのようなことをやりたいのだ」という経営の常に横に寄り添って,いろいろと機能を発揮していくためには,縦のグループに寄り添った組織の方がよいという判断で,このようにしています。それから,コンプライアンスについても,中にこのように抱えているわけですが, コンプライアンス委員会を年に2回ほどやっています。弊社のコンプライアンス体制は,私の上司である法務担当役員の常務がチーフ・コンプライアンス・オフィサーをやっていまして,各営業グループにグループ・コンプライアンス・オフィサー

(GCO)を置いています。これは,営業の人間が自分のグループのコンプライアンスについて管轄するというものです。そのグループの中で起こったコンプライアンス問題については,当該GCOが一義的に取り扱う。ただ,もちろん法的なバックグラウンドは必ずしもありませんので,われわれが一緒になって解決に当たるということで,営業グループにも主体的に問題意識を持たせる。コンプライアンスが起こったら,法務に丸投げで,「あなたたち,解決してね」と言うのではなくて,自分たちで,真相,何が起こったのか,どうして起こったのかということを解決させて,それに僕らが寄り添って,一緒に機能を発揮するという建てつけを取っています。そのように,いろいろなことが毎日起こるのですけれども,そのような起こったことを総括して,傾向と対策を考え,PDCAを回すために,コンプライアンス委員会を年に2回やって,それを経営陣に定期的に報告する。そのような態勢を取っています。

貿易手続・安全保障については,先ほど申し上げたとおりです。また,最近のデジタル社会の進展に鑑み,元々は「知的財産室」という名前だったのですけれども,「知的財産・デジタル法務室」と改称した組織もあります。まだ名前に追いついていないのですが,デジタル関係の法務をキャッチアップしていけるような体制としています。

以上のように,人数も増え,業容もこれだけ多岐にわたっているので,ナレッジマネジメントが必要だと思って,一番上の「法務企画室」を今年度からつくりました。いろいろなチームでやっていることや連結対応でやっていることのクオリティー・コントロールも含めて,ナレッジマネジメントをするための組織です。他チームとの兼務者も多いですが,重要性に鑑みて,専任のセクションをつくったということです。

グローバルでの法務体制はごらんのような感じで,東京に,リーガルのスタッフとして,八十数名がいて,先ほど申し上げたように,事務的なものを入れると,ちょうど100 名くらいで,あとは海外駐在員や事業子会社への出向者が30 数名います。少し見にくいのですけれども,「駐在員」と書いてあるものは,東京の法務部から出向して駐在している人間です。例えば,ニューヨークのところに,「法務7」と書いてあるものは,「駐在員2」に加えて,現地採用の現地の弁護士やリーガルスタッフがそれぞれ,このくらいの数だけいるということです。例えば,ブラジルのところの「5」は,駐在員1名で,あとは現地採用の弁護士が4人いるというようなことを示しています。

海外拠点として駐在員を出しているのは,ニューヨーク,サンパウロ,中国,ロンドン,シンガポールですけれども,その他に先ほど申し上げた子会社への出向者を増やしています。子会社がだんだん自立してオペレーションをするようになってきているので,これを東京から見ることは不可能で,それぞれ現場で仕事をしているところに人を送って,そこで営業部隊と一緒になって,会社の経営を支えるといいますか,法務機能を発揮しながら経営を担ってもらう要員として,子会社に人を送っているということです。

次のページですけれども,構成として,ごらんのようになっておりまして,資格という意味では,ごらんのようになっています。男女比も半々です。そして,先ほど私の経歴のところで触れたように,法務部は従来ずっと法務で一生を終わることが多かったのですけれども,最近では,経営企画部,総務部,人事部,サステイナビリティ部など,ここに記載しているようないろいろな社内の各署へ,いわゆる「社内出向」と呼んでいますが,いろいろな部に出て,法務のバックグラウンドをもとに仕事をしている状況です。

その次ですが,法務部の役割を記載しています。今でこそ何か立派なことを申し上げているようですが,私が入った 88 年あるいは 90 年代の前半は,法務部といっても,あまり全社的にも,認知されていないと言うと言いすぎですけれども,弱小でして,よくありがちな,営業の人たちが契約書をまとめてきて,「見て」と渡されて,一生懸命見て,持っていくと,「あっ,ごめん。もう内容は合意してるんだ。形式的に見てほしかっただけなんだよ」と言われて,よく「それだったら,持ってくるな」と言ってけんかをしたり,「今からここを変えてください」と言っても,「変えられないんだよね」と言われて,「じゃ,何のために見たんだ」というような時代があり。あるいは,出張に行って,交渉に同席していても,「ちょっとごめん。大事な話をするから,君,ちょっと,席を外してくれる?」などと言われて,歯ぎしりをして東京に「こんなことを言われました」と電話をかけていたような時代が,90年代はありました。

ただ,時代の流れと共に,株主代表訴訟が八千何百円でできるようになり,役員が株主から経営責任を問われるということが現実味を帯びてくると,法務の意見が重視されるようになってきた。また,企業の不祥事で,いろいろなコンプライアンス問題を含めて,刑事的な責任を問われる,あるいは会社自体が存立の危機を迎えたりするようなことも世間に出始めた。そうしたことから法務機能の重要性に関する意識が社内に芽生え始めたということはあると思います。弊社自体も 2001 年頃,米国の独禁法に違反したと陪審で評決が下され,和解でしたが1億 3000 万ドル,日本円にして百数十億円のペナルティを払わされたこともあり,「やっぱり法務って大事だね」という機運が社内で高まってきた。

それから,先ほどチーム別で「第一チーム」「第二チーム」などとご紹介しましたけれども,これらのチームのチームリーダーが,各営業グループに「投融資委員会」と呼ばれる,いろいろなプロジェクトの決裁をする委員会があるのですけれども,そこのメンバーになり,席上意見を申し述べる機会を確保できたこともあり,営業部が自主的に法務部に事前に相談するようになってきたという経緯もあります。私自身,法務部長として,全社の投融資委員会と社長室会,これは取締役会の一歩手前ですけれども,ここのメンバーになっているので,全社の意思決定機関に法務の意見を反映するプロセスが確立しています。取締役会は総務部長ですが,現在は総務部長も法務出身者がやっているので,そのような意味では,そのような会社の機関決定の場に法務出身者がいるようになっています。

長くなってしまいましたが,外部弁護士との役割分担は後の方がいいかもしれません。後に回しますか。大丈夫ですか。

河井  大丈夫です。

野島 そうですか。そうしましたら,外部弁護士との役割分担のところですけれども,「リーガルリスク責任部局としての当事者意識」と左側に書いてありますが,これは日ごろから,口酸っぱく,うるさく言っていることでして,「法務部として,会社のリーガルリスクについては,僕らが判断責任を持っているんだ」「当事者意識を持て」「ファイナル意識を持て」「人に判断を委ねるんじゃない」ということを,部員に対しては厳しく言っています。したがって,「最終的には自分が決めるんだ」という当事者意識の下,外部の弁護士さんの助けを借りると。もちろん,自分たちで何でもできるわけでなく,アップ・ツー・デートな知識を全部分かっているわけでもないので,そこについては専門性の補完という意味でお願いする。あるいは,例えば役員の責任,自分たちでは「大丈夫」と思っているけれども,万全を期すために「この意思決定について,役員の責任上,大丈夫か」ということについて,客観性を担保するために意見をいただく。あるいは,企業買収のような大規模かつ効率的に物事を行う必要性が高い場合には,外部弁護士事務所とも協力してやる。このような役割を基本的な役割分担として考えているわけです。

では,どこの弁護士さんにお願いするかということについては,これまでの長い歴史の中で,いろいろな弁護士あるいは弁護士事務所とお付き合いをさせていただいているので,データベースを部内に持っていまして,各案件における起用弁護士・弁護士事務所についての強み・弱みなどの評価の蓄積があり,そのようなことを参考にしながら都度見積もりを取得して決定しています。弁護士事務所側でもいろいろな関係もあるでしょうから,コンフリクトがある場合には,お願いしようと思っても受けていただけないこともあり,あまり特定の弁護士事務所さんだけに依存することもよくないので,バランスをとった起用を心がけています。いろいろと考えながら,お付き合いをさせていただいているということになります。

最後に,人材育成の考え方ですが,基本的に,法務部に配属されて,法務でしっかり戦力として育てていこうと思う場合には,最初の 10 年は法務で育てようと思っています。私が入ったときも,「10 年たって,やっと一人前だ」と言われていました。今申し上げているのは,学部卒で入ってきている人間を念頭に置いています。

従来,日本の企業は「採用して育てる」というアプローチで,弊社などもその典型でして,冒頭申し上げたような事業,特に国際的な業務が多かったものですから,少なくとも当時の日本の弁護士さんたちのメインのお仕事はむしろ国内でいらっしゃいましたので,海外についての業務は自分たちでやるしかないということで,海外のロースクールに派遣して,育てる。そして,海外の弁護士事務所に研修に行かせる。そのような手法を取って,育成していました。私のように,最初に「石油を掘ります」と言って入ってきた人間をそのように育てていたわけです。

それで,「そのような経験も,やっぱり 10 年は必要だな」というように肌感覚でありますので,10 年くらいは専門性を高め,その後は,先ほど申し上げたような社内の他の部や事業会社・子会社に出向させるなどして,他の経験や,会社のマネジメントの経験を積ませることで,15 年,20 年たつと,弊社の社内では「経営人材」と言っていますけれども,経営を担っていくような人材に育つのではないか,育つといいなと思って育てています。

そのような意味で,「法務の専門性」と「MCパーソン」――「MC」は三菱コーポレーションですけれども――「としての能力」のところに記載しましたが,専門性としては,記載のような専門家としての責任感・当事者意識・ファイナル意識もそうですし,ビジネスの実情を踏まえた,具体的な解決策の提案力や,タイムリーな仕事,あるいはドラフティング能力,交渉力,説得力なども必要だと。それに加えて,経営者の立場で考える力や情報収集力,調整力,判断力,マネジメント力などもバランスよく兼ね備えるためには,やはりいろいろな他の部に出たり,子会社で,規模は小さいけれども,会社の経営を経験したりすることで身に付くのではないかと考えておりまして,「こういう能力が必要だから,こういう経験をさせるんだ」という説明し,異動を経験してもらう。そのような人材育成方針を取っています。

以上,簡単,いや,すみません,長くなりましたけれども,弊社の取組と現状についてご説明をさせていただきました。ありがとうございました。

河井 貴重なお話をありがとうございます。

今日ここに来られている方はほとんど弁護士の方だと思いますので,なかなか,このような世界中で展開されている日本企業で世界中のリーガルを統括する方のお話はめったに聞くことができないかと存じますので,大変ありがたいお話をありがとうございます。

続きまして,三村さんは非常に国際的なご経験をたくさんされているので,自己紹介も兼ねて,5分くらい,ご経歴や,どのような経験を積んでこられたかというところを皆さんにお聞かせいただければ。

三村  ありがとうございます。

まず,今日ご参加の皆様で,インハウス・カウンセルや,出向でも何でもいいのですけれども,組織内で働いた経験がある方はどれくらいいらっしゃるか,もしよければ,手を挙げていただけますか。結構いらっしゃるのですね。ありがとうございます。聞いておられる方がどのような話を聞きたいのかなと思って,聞かせていただきました。参考にさせていただきながら,この後,進めていきたいと思います。まず,私は,今から 30 年弱くらい前に弁護士登録をして,それから法律事務所で 十二,三年働きました。今の西村あさひ法律事務所にいたのですが,2005 年に事務所を出て,インハウス・カウンセルとして,GE横河メディカル株式会社,今のG Eヘルスケアという,医療機器を製造販売している会社に入りました。2005 年当時は,インハウス・カウンセルはまだ 100 人くらいでした。その5年後,2010 年からノバルティスファーマという製薬企業,2015 年からグラクソ・スミスクラインという製薬企業で,執行役員あるいは取締役として仕事をさせていただきまして,「そろそろ年を取ってきたので,余生を長く弁護士としての仕事をしていきたい」と思い,昨年の8月に,元いた西村あさひ法律事務所に戻って1年強になります。

したがって,私の場合は,ほぼ医療関係の企業におりまして,なおかつ,外資系の企業にずっとおりました。アメリカ,イギリス,スイスという本社が異なった会社にはおりましたけれども,今,野島さんがお話をされたような世界を統括するのではなく,逆に,私は統括される立場で,世界で野島さんのような方がヘッドにおられて,その方から日本を任されてやってきたという立場です。

河井  アジアの統括をされていた時期は。

三村 GEヘルスケアのとき,アジア・パシフィック,具体的には日本のほか,韓国,東南アジア,オーストラリア,ニュージーランドのヘッドをやっていた時期があります。

河井 ありがとうございます。

最初の桝口さんの基調講演の中で,実装という話と人材という話をしていただいたかと思います。皆さんのお手元の資料ですと,23 分の7の9枚目のスライドでございますが,「どのように社内に有効な法務機能を実装するか」「法務人材の育成・活用について」,この2つの課題が,平成 30 年4月公表の前回報告書の中から見えてきた課題だということで,桝口さんからお話をいただいたかと思います。これを踏まえて経産省で,実装に関するワーキンググループと人材に関するワーキンググループが設けられて,現在,検討されていることが公表されているところかと思います。

まずは,この「法務機能の実装」というところを少しテーマにディスカッションさせていただければと思います。この報告書は,日本企業がどのように実装していくかを議論しているのですが,そこから少し離れて,三村さんのご経験の中で,アメリカ発の企業あるいはヨーロッパ・コンチネンタル発の企業などにおいて,どのような法務機能が実際に実装されているのかを少しご紹介いただけるとありがたいと思います。

三村  私は経済産業省の研究会のメンバーもやらせていただきまして,そこで,日本企業の法務の皆さんや弁護士など,いろいろな方々と議論させていただきました。その中で,法務の在り方としては,一般的な日本の企業では,三菱商事さんのような大企業は別として,恐らくそれぞれの国の企業に法務部門があって,法務はそれぞれの企業の社長や役員にレポートをするという形のところが多いのではないかと思います。他方,アメリカの会社でも,イギリスの会社でも,法務は,ヘッドクォーターの法務部門にダイレクト・レポートをしていることが,ほとんどだと思います。

要するに,自分の直属の上司は法務のヘッドの人であって,ただ,そうはいっても,ビジネスを見なければいけないので,そこの国の社長に対しては,「ドッテッド・ライン」といって,点線がつながるのです。つまり,ダイレクトのラインとドッテッド・ラインがあって,ダイレクトが,いわゆる,日本で言えば「私の上司」という人ですけれども,その他にドッテッド・ライン,つまり点線でつながっている人たちが結構たくさんいまして,その中で業務を行っていくことが一般的だったと思います。このように,ダイレクト・レポート以外にもレポートラインがあることを「マトリックス」と呼んだりします。

私の場合は,法務だけではなく,コンプライアンス,知財,最後の会社では渉外もやっていましたので,グローバルのそれぞれのヘッドにドッテッド・ラインがたくさんありました。その場合,例えば,法務のトップとコンプライアンスのトップが,先ほど野島さんもおっしゃっていたように,意見が違ったりする場合があるのです。そうすると,両方ともボスなので,こちらからは「こうやれ」と言われ,あちらからは「ああやれ」と言われ,「えっ,どうしたらいいの」というようなこともあって苦労することもありますが,基本的には,機能ごとにレポートラインをするのが一般的だったと思います。

河井 せんだって,『企業法務革命』という本が出版されたときにも,そのレポートラインという言葉をどう理解するのかということが若干議論になっていたと思うのですけれども,何となく,「レポート」という言葉を日本語で直訳すると,「報告したら終わり」というようなイメージがあると思うのですけれども,実態はそうではないということですか。

三村 レポートラインの一番重要な機能は,自分の評価者だということです。日本の企業も同じだと思いますが,要するに,「誰が私のやっていることについて評価をしてくれて,誰が私のボーナスを査定してくれるのか」ということが一番大きな役割の一つと言えます。ただ,マトリックスのある企業では,ダイレクトのボスは,ドッテッドでつながっている人たちの意見も聞いて評価をしなければならないということで,人が多ければ多いほど,いろいろな方のご意見で評価をしていただけるのかと思います。だから,上から「やれ」と言われて,「はい,やりました」という関係というよりは,どのように会社に貢献したかを評価していただけるのではないかと思います。まとめると,会社の中で「この人はこれほどすごいことをやっている」「ろくな仕事をしていない」というような評価をしてくれる人がレポートラインと考えていただければ良いと思います。

河井 伝統的な日本の企業で言われるところの指揮命令系統の下にあると理解した方が,何となく,おっしゃっていることに適合している感じでございましょうか。ありがとうございます。非常に貴重なご経験をお話しいただいたと思います。

もう1つ,外資系企業での実務の実態のご経験を少しお話しいただきたいと思います。先ほども若干触れていただいたかと思うのですが,また,お二人の話の中でも出てきたのですけれども,一般的に,日本企業の場合は,「法務」という言葉を非常に狭い範囲で捉えているケースが多いと言われているのですけれども,外資系の,特に英米系や欧米の企業の場合,広い意味での「法務」と言われているものは,やはり相当,守備範囲が広くあるのですか。どのようなものがコンテンツとして入ってくるのかというあたりをお聞かせいただけますか。

三村 法務部門の中でも,どのような立ち位置に自分がいるか。つまり,ジュニア層なのかシニア層なのかによっても変わってくると思いますけれども,シニア層が法務のトップとして会社の中でどのような役割を担っているかということだと思われるので,その話をします。いわゆる契約書のレビューは,ほとんどやっていません。もちろん,契約を見ることも法務の大事な仕事ではありますけれども,法務に全ての契約のレビューを依頼されても,全部をしっかり見切れないので,大事な契約だけを見ていくのが法務の役割になっています。それよりむしろ,経営自体に関わっていくことが,法務の役割だと思っています。

具体的に言えば,経営という中では,当然法務に来るケースとして,企業に対して不満を持って辞めていった方々が会社を訴えるというような場合もありますし, M&Aや,ビジネスのプロジェクト,新しい事業を始めるけれどもどうしたらいいかといった場合や,不祥事が起きたときなどがあります。私は実際にノバルティスという会社にいたときに,医療産業の中で戦後最大の不祥事と言われた案件に,運よく関わることができ,マネジメントチームとして案件を牽引していました。そのおかげで,謝罪会見で頭を下げるという経験までさせていただきました。これは本当にありがたい経験だと思っていますけれども,要は,法務はほとんど全ての経営に関わっていくということです。

経産省の研究会の議論で出てきたことですが,日本企業の法務部門が大変なことの一つとして,まず経営層が新しいビジネスとして何をやるかを決めてから,法務部門に「これは法的に良いのか悪いのか」,つまり,「法的にオーケーなのか,まずいのかを判断してください」ということを聞きに来られるらしいのです。そうすると,経営層がほぼ決めてしまっているものに対してだめ出しをすることはかなりハードルが高く,「良いと言ってしまおうか,どうか」と悩みを抱えてしまうと聞きました。

外資系の企業では,法務はマネジメントの中に入っていますので,何か新しいことを始めようとしたときに,最初から意思決定のプロセスの中に入っています。だから,後から「これは法的にどうなの」と相談されることはなくて,プロジェクトの形をつくっていく意思決定の段階で,「こういうリスクがあるから,ここはこのように回避して,このような方針でいきましょう」ということが最初の段階から言えるのです。これが,外資系の法務の在り方ではないかと思っていますし,そこは日本企業の法務の在り方と違うところなのかと感じました。

河井  ありがとうございます。

これも最初の桝口さんのお話に戻りますと,皆さんのお手元の資料で申しますと, 23 分の9ページの 13 に,すてきな図で示していただいている。このようなことを多分おっしゃっているのかなと思ったのですけれども,やはり英米の企業の場合,既に,この図で言う「これから」という機能の強い会社。あるいは,こちらの8ページの方の資料で言うクリエーションやナビゲーションといった機能が十全,発揮されているような体制で執務をされてこられたと理解させていただいてよろしいですか。

今のクリエーションやナビゲーションなどの機能というところは,先ほどの野島さんのご経験談の中にもあったかと思うのですけれども,野島さんから,今のような点について,少しございますか。

野島 そのような意味では,例えば,よく新人などに言っていることが,「秘密保持契約を見てくれ」と営業部局から来ます。それで,すごく初歩的な対応だと,秘密保持契約を見て「見ました」と言って返すことで終わりだと思うのですけれども,「秘密保持契約が来たら,やろうとしている事業の内容を聞け」と。「秘密保持契約なんかは,もう,すぐ見終わるんだから,やろうとしていること,例えば,それがコンペディターとの経営統合だったら,そもそも交渉する人の組成から気をつけなきゃいけない。いわゆる現場で情報を持っている人同士がやっちゃったら,ガン・ジャンピングというか,独禁法違反を惹起しかねないんだから,そういうところから入っていくんだ」というようなことを言っていたのですが,そのような入り方をすることで,もしかすると,より機能が発揮できるのかなという気がしました。

私は,入社したときから,「企業法務の役割は支援と牽制なんだ」と口酸っぱく上司から言われておりまして,これは今,桝口さんからご説明のあった「クリエーション」「ナビゲーション」「ガーディアン」のような格好よい言葉ではないのですけれども,「支援と牽制が車の両輪なんだ。支援をしているだけでもだめ。牽制をしているだけでもだめ。でも,牽制をするためには,支援をしなきゃいけない。支援をしっ放しでもいけない。だめなものはだめと言え」と口酸っぱく言われていましたので,この両輪を軸として仕事をしてきたわけですが,そのような意味で,クリエーション,ナビゲーションのあたりは支援と言ってよいのでしょうか。ガーディアンのところは牽制と言っていいのでしょうか。違法行為をやってはいけないことは当たり前ですが,いわゆる悪い意味でのグレーゾーンもだめだということについて,ガーディアン的な機能を発揮することが必要なので,認識では全く同じ考えでおります。

河井 どうもありがとうございます。

これから,もう少し人材の構成のところを議論させていただけるとありがたいと思います。野島さんの資料でいくと,23 分の 18 のところで,ニューヨーク州の資格者が 47 名,日本の資格者が 24 名と,英国,豪州,メキシコ,中国と伺いました。このニューヨーク州は,やはり野島さんのように総合職で入社された人を,10 年間の育成とおっしゃっていた,その期間に派遣して,なった方と,ラテラルで採った方と両方いらっしゃるような感じですか。その辺を。

野島 そうですね。私のように,新卒で入って,会社でOJTで学びながら,留学させてもらって取ったのが大層です。ただ,キャリア採用で,日本とニューヨークの両方の弁護士資格を持っている人が入ってきた場合はそれぞれにカウントしていますので,そのような意味で,キャリア採用で日本の弁護士事務所から入ってきて,両方を持っている方もカウントされています。あと,英国や豪州は,私もあまり詳しくはないのですけれども,日本などの資格を持っていると,試験が若干簡素化されるそうで,駐在期間中に取った者もいます。メキシコは,メキシコ国籍の日系の人を採用しています。中国も同様です。

河井 ありがとうございます。

三村さんがいらした企業で,日本拠点に限らず,例えば,GEさんなどは世界中に非常にたくさんのリーガルのスタッフがいるかと思うのですけれども,人材の求人や構成は,やはり伝統的な日本企業とは大分違う感じなのでしょうか。

三村  有資格者かどうかというご質問ですか。河井 そのようなことでもいいです。

三村 日本の弁護士資格を持っている人数が,他国に比べて圧倒的に少ないせいではないかと思いますが,私がいた会社では,日本以外の国では,サポートスタッフ以外は全員有資格者でした。アジアもそうでしたし,ヨーロッパもアメリカもそうでした。有資格者ではない法務や知財の担当者がいることは,世界の中では,かなり珍しいと思います。ただ,皆さんもご自身で経験されたとおり,日本の法曹制度が,世界に比べるとやや特殊なので,「外国はみんな有資格者なのに,日本は有資格者でない人がいる」というのは,アップル・ツー・アップルの比較にはならないかと思っています。

河井 ありがとうございます。

人材に関して今,少し形式的な比較の仕方から入ってしまったのですが,お二人にぜひ伺いたいと思っていることは,法務人材として,社内の法務人材あるいは社外の法務人材として,求められるスキルセットは必ずしもイコールではないのではないかとも思ったりもするのですけれども,三村さんのあたりから,まず,法律家としてのスキルセットとしてはこのようなものが必要だ,あるいは,企業内の法務パーソンとしてはこのようなスキルセットが必要だと考えていらっしゃるなど,そのあたりを少し詳しめにご説明いただけると。

三村  まず,法律家である以上,必須なスキルはあると思っています。例えば,お医者さんだったら体のしくみを知っているということと同じように,法律家を含め,法務で働く人材は,最低限,持っていなければならないスキルとして,私は3つあると思っています。

1つは,まず事実を把握する能力,情報収集能力です。野島さんのスライドにも「情報収集能力」と書いてありましたけれども,「事実が何なのか」を集めて確定していく能力が第一に必要な能力です。それから2つ目は,事実が把握できたら,その事実に関連してくる規範がどこにあるのかという,規範を見つける能力が必要です。そして,その事実と規範をぶつけたときに,この行動はちょっと問題あるかな,だから,これはリスクマネージをきちんとしないといけないというようなことを判断する能力です。そして最後に,それを会社の人たち,あるいは,弁護士事務所であればクライアントの人たちに「こういうな理由で,これはこうした方がいいですね」ということを伝えるコミュニケーション能力が必要です。この3つの能力が必要だと思っています。

その上で,インハウスはどこが違うのかというと,桝口さんのスライドにもあったように,やはりインハウス・カウンセルの仕事は,会社をサステイナブルに成長させていくことが使命なので,ビジネスを知った上で,自分の会社がどのように成長しようと考えていて,どうしたら法務としてそれを手助けできるかを考えて,コミュニケーションをとるスキルセットが重要になってくると思います。

河井 スキルという点で,非常に興味深いお話をありがとうございます。

スキルセットというお話は,23 分の7のところで言及されているところかと思いますけれども,あとは,仕事への取り組み方といいますか,マインドセットのところで,野島さんのお話の中でも,マインドセットに関するお話を非常におっしゃっていただいたのかと思いますし,また,桝口さんのお話ですと 23 分の 11 の 16 枚目のスライドで,マインドスキルやマインドセットに関する議論をしていただいていますけれども,これについても,アウトサイド・カウンセルとしても,インハウス・カウンセルとしても,非常にご経験豊富でいらっしゃるので,伝統的な日本企業の法務部のマインドセット的なもの,日本企業の中で先進的な事例,あるいは,インハウス・カウンセルとしての法務機能を担う人材としてのマインドセットというところを少しお話しいただければ。

三村  先ほどもお話しさせていただきましたが,日本企業の法務の方に話を聞くと,何かプロジェクトが決まった後に,イエス・ノー,すなわち「法的にやっていいのか,いけないのかを決めてほしい」と聞かれて,とても悩むという話を聞きます。それは,そのような期待があるから,という部分と,そのようなことに答えをることが法務の役割だと考えているからそのような期待を受けてしまうという部分もあるのかもしれません。先ほど申し上げたように,企業の中や組織の中で,法務の役割を果たしていくことは,「リーガルかイリーガルか」「イエスかノーか」ではなくて,会社が何かをやろうとしているときに意思決定の段階でサポートしたり,あるいは,どうしても止めなければならない場合に止めることだと思っています。法的に良いのか悪いのかをジャッジするだけでは,今の企業から期待には応えていないのではないかと思います。

河井  今のお話は,主にインハウスのカウンセルだったり,インハウスのリーガルのトップだったりの人たちのマインドセットというお話だったかと思うのですけれども,近年,いろいろな統計などを拝見していますと,多分,野島さんのお勤め先でもそうでしょうけれども,ラテラルで,中途採用で法律事務所や他社に勤務していた弁護士,有資格者,あるいは,弁護士ではないけれども,それなりにスキルを持った人を採用することがあると思うのです。ここでは弁護士の場合で,しかも少しスペシフィックな話で,私などは法律事務所から企業内に入った口ですけれども,法律事務所の弁護士が企業内に入っていくときに,そこのマインドセットは,何か気を付けるべきことといいますか,少しカルチャーが違うというようなこともあるのですか。

三村 私は元々ビジネスが好きだったから企業に入りました。先ほど人材のところで,これからの法務は,もっと外に出ていったり,マネジメントの中に入らならなければいけないと申し上げましたが,私は今でも,誰かが「うちの会社の社長になりませんか」と誘ってくれたら,喜んで社長になりたいと思っているくらい,元々ビジネス志向があります。必ずしも社長になりたいと思う必要はありませんが,企業の中に入っていく以上は,ビジネスの環境がどのように変化し,ビジネスを成長させるためにはどうしなければいけないのかを常に考えるビジネス志向は必要だと思います。また,法務のマインドセットとしては,CSRも必要ですし,企業が世界の人権を守っていく役割も果たさなければいけません。そのようなマインドセットを持って,日々のジャッジメントをしなければいけないとは思っています。

河井  法律事務所の弁護士は,結構待ちの姿勢といいますか,「相談されたらアドバイスしますよ」と。そのようなところはどうですか。

野島  一般的には,そのような傾向はあると思います。これは別に,仕方がないといいますか,そのような業務の仕方で,事務所でお仕事をされてきたわけですから。ただ,キャリア採用で弊社に例えば来ていただける方には,企業の中に入ったら,待ちの姿勢ではだめだと申し上げています。自分でプロアクティブに情報を取りに行くことが重要だと。例えば,ある人が相談に来たとして,何かよく分からないと。分からなかったから,そこで止まるのではなくて,上司に聞く,あるいは横の人に聞く,管理部や経理部的なところにも聞いてみるなど,そのように自分で動いて情報を取りに行くことが必要なのだと。そして,必要な情報を取れなかったら,上司を動かし,上司から向こうの上司に言って,「もっとちゃんと教えてくれ」というようなプッシュも必要だったりするので,「待ちの姿勢ではだめですよ」ということは,キャリア採用でいらしてくださった方には言っています。

それから,心構えのようなところにお話が及んだので,これは長いので,簡単に読みますけれども,われわれがどのようなことをうるさく言われて育ってきたかという,「法務部員の心構え」というものがありますので,簡単に何点かを読みます。

まず,冒頭にあるのは,営業部門や関係コーポレートスタッフ部門との協力・共同作業を通じて,また,経営を直接・間接サポートすることを通じて,最終的に会社の利益に寄与することが職責であるとの基本認識を持つということが1つ目に書いてあります。私も,若いころによく言われたことは,「おまえが仕事をしているのは,対面の営業部員のためでも,営業部のためでもないのだ。おまえの向いている先は会社そのものなんだ。だから,『この人のビジネスをやらせてあげよう』とか『この部のためになろう』とか,くだらない人間関係をよくするようなことで仕事をするな」ということは相当厳しく上司から言われました。そのような意味では,そのような教育を受けたからですけれども,海外で採用して,海外の子会社等に弁護士事務所から入ってくる人が,営業から相談に来る人のことを,「今日,クライアントと打合せをして,クライアントがこう言った」と言うことが,すごく引っかかるのです。「クライアントって,誰のことを言ってんの。営業部員のこと,営業部のことをクライアントだとあんたが思ってるんだったら,それは大きな間違いで,あなたのクライアントは会社そのものなんだからね。そこの軸をぶれさせるな」ということは常に私も言われて育ちましたし,特に外からキャリア採用でいらっしゃる方には,そこはまず申し上げることです。

あと,長いので,拾ってご説明しますが,上司へきちんと報告しない業務は仕事ではない,というのもあります。個人プレーに走るな。法務部という看板を背負って仕事をしているとの基本認識を持って,責任感を持って仕事をしろ。当事者意識・ファイナル意識を持って案件処理に当たれ。違法取引となるおそれがあるときには,速やかに,その事情をその場で言って,上司等に報告しろ。タイムリーならざる仕事は仕事ではない。時間管理をしっかりしろ。仕事を行うに当たり,ビジネスの実情を理解し,現実を踏まえて,具体的な助言・指導を行え。謙虚になれなど。いろいろな心構えがあります。

担当者としての処理能力としては,事実及び問題点を発掘し,把握する能力。それから,法律問題を特定し,それを分析する能力。解決方法の提示。報告能力,法律知識,調査能力,語学力,ドラフティング能力,取引知識,会計・税務知識,健全な常識,バランス感覚,判断力,説得力,交渉力。これを全部つけろということが,法務部員に対する指示になっておりまして,これが全部できたらスーパーマンだと思うのですけれども,ただ,そのようなことを日々言われながら業務をしているということが,「マインドセットは何か」と言われると,お答えです。

三村 今おっしゃっていただいたことで,私も思い出したことがあって,一言,言わせてください。私はインハウスに比較的早いうちに入ったので,よく法律事務所の弁護士の方に「インハウスになろうか悩んでいるんだけれども,インハウスに行ったら,どんな仕事をさせられるの?」と聞かれることがあります。そのときに必ず,「インハウスロイヤーは,自分で仕事を作るものだ」と答えます。つまり,法律事務所にいたら,クライアントが来て仕事をくれなければ始まらないわけで,こちらから企業に行って「すいません,私はこの仕事をしたいんですけど」と言うわけにはいきません。そのような意味では,クライアント待ちになる部分があります。他方,インハウス・カウンセルは,実は人が相談をしに来たときはもう遅い。つまり,社員が法務に相談をしようと思うときには,手遅れになっていることが多いのです。ですから,相談に来られるのを待つのではなくて,自分から,「この会社にとって,何をして,どこを変えることが良いのか」を自分で考えて,それを実行することがとても重要になります。そのためには,これまで頼まれていた秘密保持契約は,極端に言えば各部署で見てもらって,会社に付加価値を付ける仕事を見つけて行うくらいの覚悟で仕事をすることがインハウスの価値として求められるのです。

河井  非常に興味深いお話をいただいて,ありがとうございます。

今,野島さんがおっしゃった心構えは,今日の皆さんのお手元の資料では,23 分の 21 の「法務の専門性」というところでも書いていらっしゃるところかと思います。これを心構え的な側面からお話しいただいたのかと理解いたしました。

また話が戻って,実装すべき機能の内容を,もう一度,お話をさせていただければと思うのですけれども,先ほどの桝口さんのお話の中では,三色の三角の中でのクリエーション機能と,ナビゲーション機能と,ガーディアン機能,これは,23 分の9のところでご説明があったかと思いますが,安定した既存事業においては,ガーディアン機能の方が相対的にウエートが高くなる傾向があるのではないかと。これは,私も「本当にそうだな」とすごく思ったのです。逆に,新規事業開発においては,やはりクリエーション機能。これは,前に Airbnb の渡部さんという方のお話を私が伺ったときに,非常にこのようなところを重視したお話をされていて。この方も確かワーキングのメンバーでいらっしゃいましたね。そのようなことを思い出したりしました。野島さんのお話の方ではもう少しかたい感じで書いていただいていて,23 分の 19 のところで,ダメージ・コントロール,法的リスク回避,あとは,リスクの最小化,利益の極大化というところのお話を書いていただいています。

まず,野島さんから,少し時間もまだあるので,この辺をもう少し詳しめにお話しいただけるとありがたいのですが。

野島  ナビゲーション,クリエーション,ガーディアンとは少し切り口が違うかも しれませんけれども,法務部,あるいは,コンプライアンスを含む法務の機能としてのダメージ・コントロール機能は大変重要だと思っています。冒頭でも,最近の品質不正の件を桝口さんが例に出されていましたけれども,あのようないわゆる企業の不祥事が起こったときに,どのように企業として対応するのかは,危機管理対応として大変重要度が高い業務の1つだと思っています。そのような意味で,日弁連さんも,第三者委員会の在り方についてガイドラインを示されたりしていますし,企業としては,不祥事が起こったときに,どのような手段で,どのような手順で対応すべきか,ということは,常日ごろから考えておく必要があると思っています。そのような意味で,世間で報道されているような事例を参考にしながら,弊社だ

ったらどのように対応するか,どのような委員会を組成すべきか,ということは,日ごろ,部内で話をしています。あるいは,政府調査対応のときにはどのように対応すべきか,しかも,最近はグローバルな,そのようなことがないのが一番いいのですけれども,グローバルに一斉捜査が入るようなことも,事例としては起こっていますので,そのようなときには,では,どう対応したらよいのかということは法務が考えるべき大きな課題の1つです。これは,法務だけで完結するわけではなく,弊社の場合には,例えば広報や総務など,そのようなところと連携して対応することになりますし,メディア対応をどうするかというようなことは広報が中心になるのでしょうけれども,一緒になって考えて,会社を挙げて考え方を整理しておくということです。そのような意味で,法務部の機能として,一番上に紛争・法的解決を挙げて,そこにダメージ・コントロール機能と掲げたのは,やはり危機管理が1つ,重要なファンクションだからという意味です。

それから,昔風の言い方で「予防法務」「戦略法務」と書いていますが,これはもうご案内のとおり,契約分析・作成・交渉を通じてやるという意味では,クリエーション,ナビゲーションの部分も含むと思いますし,案件を進めながら,例えば,贈収賄をやらないように,あるいは独禁法をやらないように,あるいは業法を遵守するようにやるというような意味では,ガーディアンの機能も含むと思います。戦略法務という意味では,ここに書いてあります「事業投資・取引でリスクを最小化し,利益を極大化する」。なかなか,このような格好のよいことができているかどうかは分かりませんけれども,これも,案件の最初から法務が関与することで,リスクも最小化できるでしょうし,利益をできるだけ多くするためのストラクチャーの構築に法的な観点から寄与することができる。そのような意味では,クリエーションとナビゲーションの機能をここに含んでいると思います。

弊社の例としては,このようなことを法務としてやっているということについて,経営陣と意思疎通をする必要があるだろうと思っていまして,法務担当役員で,私の上司である常務とは,彼は営業グループの出身ですけれども,殆ど毎日,業務についての話をしていますので,冒頭に桝口さんからご紹介があった,日本企業では経営とお話をする頻度が少ないというような記載がございまして,経営層に担当役員を入れるのであれば,毎日話しているということになります。何ページでしたか。

河井 23 分の4ページのスライドの2番のあたりで,経営陣とのコミュニケーションの話を紹介していただきました。

野島 そうですね。したがって,法務担当役員を含むのであれば,毎日ですし,社長という意味では,月1回,社長に対して法務業務について話す機会を設けてもらっているので,社長に対して「法務的には,こういうイシューがあって,こういうことをやっていて」ということを話していますし,社長からも,重要案件について「法的にこれはどうなんだ」というような電話がかかってきて,「おまえ,どうなんだ。ちょっと来い」と部屋に呼ばれて,「そこはこうです」「ああです」という話をする機会は,これは月何回というよりも,アドホックに必要があるときということで,そのような会話はさせていただいている。

あと,コンプライアンスという観点で,最近出たグループガバナンスの方に話が飛んでしまうかもしれませんけれども,経産省でまとめられた実務指針でも,1線・ 2線・3線ディフェンスというような考え方があって,そこでも監査役の機能や2線ディフェンスは大事だということが書かれていたと思いますが,弊社では,監査部と法務部とが一緒に監査役に対して月1回業務内容を説明する機会があります。そこでは,監査役に対して,監査で出てきた問題や法務として抱える課題などにつき,報告したり,意見交換をします。

以上のような機会を活用し,法務として持っている問題意識を経営に説明したり,逆に経営から具体的な指示を受領したりしている,ということになります。

河井 ありがとうございます。

特に非常に貴重なお話で,23 分の 19 のこの3つのポイントは,どのような法務機能が実際に実装されることが望ましいのかを体現している内容ではないかと私は思っておりまして,ぜひ,このあたりを深堀りした話を,三村先生からもいただけるとありがたい。

三村 最初に桝口さんから,コンプライアンス,グローバル化,技術の進歩によって法務の役割が変わってきているという話が出ていましたけれども,全くおっしゃるとおりで,今や企業がリスクを考えた上でのジャッジメントを行わないことはあり得ない世の中になってきていると思います。これは「リスク・ベースト・マネジメント」や「リスク・ベースト・ディシジョン・メイキング」などと言われていますけれども,もはや世界共通の常識となっていると思います。リスク・ベースト・ディシジョン・メイキングを会社がしようと思ったときに,リスクを発見するのは誰かというと,確率が一番高いのは,やはり法務であり,コンプライアンスであり,そこが今の話だと,予防法務になり,ダメージ・コントロールにもなると思うのです。ぜひ,インハウスの皆さんも,法律事務所の皆さんも,「リスク・ベースト・ディシジョン・メイキングをきちんとやっていかないと,会社は持続可能な成長を遂げられない」ということをクライアントに教えてあげていただけるとありがたいと思っています。

河井 今日,この会場にいらっしゃる皆さんの中で,企業の取締役あるいは監査役,監査等委員などを,委員会式でも,伝統的なものでも,やったことがある,あるいは現にやっていらっしゃる方は,どのくらいいらっしゃいますか。ちょっと挙手していただければ。結構いらっしゃいますね。「これからやってみたいな」と思っていらっしゃる方はどのくらい。ありがとうございます。

取締役あるいは監査役というところの役員人材というお話も結構おもしろいのかなと思っていまして,アメリカの会社の場合と日本の会社の場合で結構違うのは,アメリカの場合は,エグゼクティブの人たちは取締役ではなくて,日本で言う執行役員のようなお立場で,そこにはほぼ必ずロイヤーがいる。アカウンタントとロイヤーが必ずCFO,CLOでいるというような形なのかなということを,印象としては持っているのです。ぜひ桝口さんにも,お三方に伺ってみたいのですけれども,日本企業において,取締役レベルあるいは執行役員レベルでの弁護士,日本法かもしれないし,ニューヨークなどの海外の資格かもしれませんけれども,あるいは日本国内の出身の人やアメリカなど世界の,国外の出身の人,いろいろな方がいらっしゃるかもしれないのですけれども,そのような法律の専門家がボードに入る。あるいは,監査役として,どの程度必要とされているものなのでしょうか。あるいは,日本と海外で,どの程度その必要性が違うものなのでしょうか。桝口さんあたりから,どのように思っていらっしゃるかを聞かせてください。

桝口 ありがとうございます。日本企業に法律の専門家が必要なのかどうかというご質問だと思っております。ご承知のとおり,やはりどこかで法律的な判断をしなければならない場合がありますが,経営判断の過程において,資格を持つかどうかは別にしても法律の専門家が関与して法的な視点から的確な判断がなされるのではないかと思っているところでございます。

様々な企業と,この報告書を作成するに当たりまして,もしくは平成30年4月 の報告書を作成した後に意見交換をさせていただきまして,資格を持つ法律の専門 家をどのように活用していくべきかとの同じような質問を複数受けたりいたします。経営会議の場や企業の今後の方針を決定する中におきまして,どのように法律家に 入ってもらうかというような話もあります。どの企業にもあてはまる「これがベス ト」というような成功例はまだ見つかっていないところもあります。どのように資 格を持つ法律の専門家を活用していくかは,様々な企業が今,抱えている問題の1 つかなと考えているところでございますので,それは,もし実務家のお二人から, そのような話が聞けたら,すごく参考になるかなという感じで今,考えております。

河井 ありがとうございます。野島さんはいかがですか。

野島 ボードメンバーに法務がいた方がいいかというご質問でよろしいですか。 河井 資格者,あるいは,資格者ではなくても,そのような専門的な知見のある人。

野島 分かりました。桝口さんがおっしゃったことと重なりますけれども,弊社は監査役型ですが,したがって,取締役会メンバーには,弊社の場合は今,法務のバックグラウンドを持っている人間はいないのですけれども,監査役として弁護士が従来,歴史的にも必ず1名はいる。そのような意味では,取締役会にはいることになっています。機能としては,やはり私は,法曹のバックグラウンドなり経験を持っている人が一人はいた方がいいだろうなと思っています。監査役型であれば,個別の投融資案件を審査する場面もあるでしょうし,三委員会型でも,まるで個別の案件はしないという運用をされている会社さんは決して多くないようにも理解しています。仮にモニタリング型で経営方針・経営計画を議論するような場合だったとしても,やはり法律的な部分が出てこないことはないと思いますので,そのようなときに,「それは法的にはまずいんじゃないか」「そういう考え方だと問題がある」というような議論には十分になり得ると思いますので,弁護士資格があるかないかにはあまりこだわりませんが,法曹のバックグラウンドといいますか,法律のバックグラウンドがある方は,やはりいらっしゃった方がいいのかなとは思います。

三村 私も全く賛成でして,「法曹資格がある」かどうかは別として,リーガル・マインドセットを持って,ビジネスを成長させていくような意思決定ができる人は必ず必要だと思っています。少し前までは日本では,法律家の目で見て意見を述べられる人が取締役の中にいなくて,取締役は,決めたことを外部の法律事務所に相談しに行って意思決定をしていたのだと思うのですが,先ほど申し上げたように,リスクを最初の段階から加味した上で意思決定をしていこうと思うと,なかなか外部の法律家のところに持っていって相談するだけでは難しいと思うので,リーガル・マインドセットを持った人は会社の中に必要だと思います。もっと言えば,アメリカなどでは,法曹資格を持った社長などたくさんいます。私はハリウッドで映画関係の仕事をしていたことがありますが,ハリウッドでは多くの社長が弁護士資格を持っています。日本の取引先の社長が,「弁護士が来ると何かとうるさいから,まずはヘッド同士で話そう」などと言われて話をしに行くと,向こうは社長が法律家なもので,不利な契約書にサインさせられたりします。これなどは,リーガル・マインドセットを持っている人がビジネスをやったときの強さを物語っているのではないかと思います。

河井 今,お三方にお話しいただいたのは,まずはボードメンバーという観点でおっしゃっていただいたかと思うのですけれども,そのもう1個下の階層といいますか,今度はエグゼクティブ・コミッティー・メンバーやエグゼクティブ・オフィサーのレベルでロイヤーがいるということは,アメリカなどでは大体いるなと見えるのですけれども,ACC などを見るとですね。その階層に関してはどのようにお思いですか。実務家のお二人からおねがいできますか。

三村 同じです。取締役だろうが,エグゼクティブだろうが,同じだと思います。

野島 弊社の事例で言うと,付議基準金額が高いので,取締役会にかかるものは,案件数としては少ないと言えます。事実上,多くの案件の意思決定は,その手前の投融資委員会と社長室会で決まるので,そこには私はメンバーに入っているのですけれども,そこでリーガルの議論が出ないことはあり得ない。必ず「リーガル上,どうなんだ」という話になるので,ここには必ず必要だと思うのです。そこに参加しているメンバーのタイトルは別として,そのメンバーの中に入っていることは必要だと思います。

河井 ありがとうございます。

実態としては,日本企業の全てがそのようになっているかというと,そうではないところも,もしかしたら多いのかもしれないところはあるかもしれないのですけれども,そうすると,それが1番目,2番目の階層で,もう少し下の,例えば部課長レベルや管理職レベル,あるいはプレーヤーとして比較的,中くらいよりも上くらいのところに,インハウスのロイヤーがいる,あるいは,それと同等の知識や経験のある人がいるという日本企業が,昨今では増えてきたのかなという印象は持っているのですけれども,そのような中で,やはりここは日弁連の行事なので,若干恐縮ですけれども,資格者,例えばニューヨーク・バーの資格者や日本のバーの資格者を企業が採用して,そこで活躍するということ,そこに資格者がいるということが,企業にとって,どのようなバリューがあると感じていらっしゃるのか。当然バリューがあるということで,派遣されて,資格を取らせたり,あるいは,そのような方をラテラルで採用したりしているかと思いますので,野島さんから,お二人から,そのバリューのところを。

野島  確かにおっしゃるとおりで,資格の有無で仕事をしているわけではないので,

資格がないと仕事ができないかというと,そうではないと思います。ただ,育成の観点から,新卒採用の人間は,弊社の場合には,できるだけ海外のロースクールに送って,英米法を勉強してくることにしていますし,キャリア採用の場合には,「こういう一定の経験を持っている方だ」ということを示すあかしとして,資格を持っていることを要件の1つにさせていただいて中途採用をしていますので,資格を持っているということは,そこの客観的な「勉強して,知識を持っている」というスタート地点の1つとして見ていることは事実です。ただ,資格を持っていればいいかというと,決してそうではない。資格を持つことはスタートラインなので,そこからどのように,先ほど申し上げたようなスキルセットをつけていって,しっかり案件をマネージして,経営に対して,会社に対して貢献するということをするためには,やはりいろいろな経験を積まなければいけないので,そこを経験してもらうことを期待している。資格に加えて,そのようなことをスキルセットとして,つけてほしいと思っているということです。

河井 ありがとうございます。

三村 日本の難しい司法試験を受かった方々は,単に法律知識があるだけではなくて,「地頭が良い」といいますか,やれば何でもできる人が多いのではないかと思います。とても嬉しいことに,今,日本の弁護士資格を持っている方が企業の中でものすごく活躍されていますが,それは法曹資格があるから,あるいは弁護士バッジを持っているから活躍されているのではなくて,いろいろな能力を持っておられるから活躍されているのだと思います。私自身は,企業法務の人材が法曹資格を持っているかどうかにはあまりこだわってはいないのですが,司法試験を受かって,法曹の中でいろいろな荒波を乗り越えた経験を持っているということは,企業法務にとっても重要は,大きな経験なのではないでしょうか。

河井  今度は,今日のテーマのもう1つの側面である,アウトサイドロイヤーに関 するお話を少しお二人からお聞きしたいと思うのですが,野島さんのお話にもあっ たかと思いますし,恐らくどこの企業でもそのようなことはあると思うのですが, インハウスの人たちだけで全てを賄うということはほとんどあり得なくて,いろい ろな折に触れて,専門性の補完というお話もございました。それから,一時的に大 量な作業が発生するようなものに関してアウトソースするというような観点もある。デュー・ディリジェンスなどですね。そのようなお話もございました。

そのような中で,お二人はもう本当に,そのような意味では,先進的なインハウス・リーガル・プラクティショナーの地位もしっかり持っていらして,率いてきた方だと認識させていただいているのですけれども,そのような人たちが法律事務所の社外の弁護士に対して求めるものについて,これは皆さん,結構聞きたいところだと思うので,ぜひ野島さんからお話ししていただきたい。

野島  繰り返しになってしまうかもしれませんが,やはりわれわれが外部の弁護士さんに期待するのは,高度な専門性ですので,そこについて,最近,いろいろな法令が変わるスピードも速いですし,比較法的な観点もよりあった方が,われわれも深みのある理解ができるので,そのような高度な専門性をぜひ備えていただけると,大変安心してお願いできるというところが,まず筆頭にはあります。

あと,最近の弊社の問題意識は,やはり連結経営です。投資家から求められるリターンもどんどん高くなり,効率的な経営をすることが求められてくると,だんだん,昔はまだ本社でやっていた仕事を子会社・関連会社に移管して,より効率的に進めることが必要になってきて,そのような意味では,昔は本社に現場があったのですけれども,最近,現場が子会社・関連会社に移行しているということがあります。そうすると,当然,自分たちだけで見ることが難しくなってくる。現場が遠くなるので,冒頭の説明の中でご説明したように,主要な子会社には人を張り始めているということにはそのような理由があるのですけれども,それでも足りるわけではない。そうすると,外部の弁護士事務所とうまく連携して,子会社に寄り添っていただいて,効率的に業務を見ていくことが必要になると思うのです。そのときに,時折ですけれども,いらっしゃるのが,そのような意味で,会社法も,連結ベースでも,内部統制の責任を親会社に負わせている。要は,「子会社もしっかり見ろ」ということですけれども,子会社の弁護士になると,子会社しか見なくなってしまう方がいらっしゃって,親会社から「いや,これはどうなってるんだ」と言うと,子会社の経営者の,保身と言うと言葉があれですけれども,そこに目が行ってしまって,「親会社の観点から,こうあるべきだ」ということよりも,子会社を守るのが先に立ってしまう方がいらっしゃる。そうすると,なかなか連結ベースでのマネジメントが難しくなってしまうことがあるので,やはり会社法も連結ベースに変わってきていますし,親会社としてのリスクマネジメントという観点から,そのような観点を持っていただきたいと思います。もちろん,もう,ここにいる皆さんはご理解いただいていると思いますが,そのようなことを実感として感じたことがあったことは,ご紹介させていただいて,悩みに戻ります。

そのような子会社がたくさんあるところで,外部弁護士事務所との連携が1つの課題であることと,先ほど三村さんのお話にも出できたドッテッド・ライン・レポーティング。弊社の子会社でも,規模が大きくなると,そこで外部の弁護士さんを現地で雇うわけですが,そうすると,現地で雇われているので,やはりその子会社の経営にしか目が向いていないのです。ですから,そこで何が起こっているのかが親会社として分からないから,聞くと,なかなか答えてくれないのです。そこに出張っている営業部隊も,「自分たちでいろいろとマネージしてから本社に報告したい」と思うので,勝手にコミュニケーションされてしまうと,「おまえ,告げ口をしたのか」「おまえはスパイか」というようなことを,コーポレートの人に対して営業も言う。そうすると,ますます報告しにくくなるということも過去に,正直に言って,ありました。

ですから,「そこは,そうじゃないよね」ということで,マインドセットを連結ベースに切りかえてもらって,ドッテッド・ラインの法務同士のコミュニケーションをできるだけスムーズにやるように今,持っていっております。ただ,まだ未完成ですし,ここをどうしていったらいいのかという工夫の1つとして,例えば,今年は,そのようなグローバルの主要子会社の法務責任者を東京に呼んでグローバルのリーガル・ミーティングをやる予定です。今までもやっていたのですけれども,目的意識を明確にして,参加者も責任者に比重をおくことを予定しています。やはり顔を知らない人とコミュニケーションをすることは難しいので,来てもらって,今年の課題や,コンプライアンスで今年あったことなどについて意見交換をしながら価値観を共有するというような場をつくって,できるだけ法務同士のレポーティング・ラインを太くしていきたい。

ただ,先ほどもお話に出ていた,レポーティング・ラインをしっかりと機能させるためには,人的評価・考課権限を持つべきなのかというところもあって。これは,イエス・アンド・ノーといいますか,駐在員は,東京から送っているので,いずれ戻ってきて,法務の中でのローテーションに乗っていくわけなので,目は東京も向いているのですが,現地で採用したナショナルスタッフはそのようなことではないので,このような人たちといかに意思疎通を,人的評価・考課権限がない中でやっていくのかというところは,どこでバランス,折り合いを取ればよいのかということは課題として思っています。昨年や一昨年に,海外出張のついでに,欧米企業のジェネラルカウンセルと会って,「どうしてるの」などと話を聞いたりしましたが,彼らは,先ほど三村さんがお話しになったように,レポーティングは定期的に受けているし,評価・考課権限もある。ただ,結構,会社によっては複雑で,何か本店,ヘッドクォーターのジェネラルカウンセルと,リージョナルなジェネラルカウンセルと,分野別のジェネラルカウンセルがたくさんいて,「俺はもう3人に報告しなければいけないから,大変なんだ」などと素直に愚痴っているジェネラルカウンセルもいて,「ああ,これはこれで大変だな」と思ったりしましたが,そのあたりは,何がベストなバランスなのかということを悩みながら,試行錯誤をしながら今,考えているというところが実態です。

三村 私は,法律事務所から会社に入りましたので,会社に入ったときに何が一番うれしかったかと言いますと,法律事務所でクライアントの席に座れることがとてもうれしかったです。前は,クライアントから,金曜日の夕方に「急ぎませんが,月曜日の朝までにお願いします」などと言われて,「それって,土日に働けということね」と思いましたが,逆に,夜の9時くらいに「明日の朝までで良いのでお願いします」などと言えたことは,ちょっとうれしかったですかね(笑)。

それはともかくとして,私はよく法律事務所の人たちに言っていますが,これだけインハウス・カウンセルが増えてくる時代になると,法律事務所の働き方も変えていかなければいけないのではないかということです。私は社内にいた弁護士として,いろいろな法律事務所にご相談に伺いましたが,ありがたいと思う法律事務所は,弁護士仲間として相談に乗ってくれたところでした。逆に,普通のクライアントといいますか,「お客さん」扱いで,法律事務所の中で検討されたことは伝えず,結論だけを教えてくださる法律事務所には,「何で,そういう思考になったんでしょうか」「どういうところに重きを置いてそういう結論が出たんでしょうか」ということを聞いてしまいました。もちろん,会社によっては,法律の専門家がいらっしゃらなくて,本当に結論だけを教えてほしいと思っておられる会社も多いとは思いますが,インハウスに法律の専門家がいる会社であれば,法律家の仲間として,「この会社のために何が一番良いか」ということを一緒に考えてくださる弁護士・法律事務所が,一番ありがたいと思いました。

もう1つは,私がインハウスとして「ここまでは攻めてもいいかな」と思っているときに,ずっと手前で「いやいや,そんなことは危ないのでやらない方が良いですよ」と言われると,「もう二度と相談に行くのをやめよう」と思いました。専門性が高い弁護士,その分野の専門家であればあるほど,グレーゾーンのマネジメントの仕方をよくご存じなので,「いやいや,三村さん,もうちょっと突っ込んで攻めてもいいんじゃないですか」というようなアドバイスをくださいました。そのような事務所には,何度も繰り返し相談に行っていました。それが,われわれが求めるものだと思います。

最後にもう1つ。社内にいますと,しょせん内部の人だから,例えば本社からの質問に誠実に対応しても,「社長から言い含められて正しい判断をしていないのではないか」と疑われることもあります。そのようなときに,「日本子会社の法務の言っていることが,日本法に基づいて,今やるべきこととして一番正しいことだ」ということを,グローバルのボスに伝えてくれて,「まり子が言っていることは正しいから,そのとおりやると良い」というような援護射撃をしてくださる弁護士は,とてもありがたかったです。

その3種類くらいの弁護士さんにぜひご相談に行きたいと私は思いました。

河井 今の話は,皆さん,すごく参考になったのではないかと思います。ありがとうございます。

野島 あと,一言だけ。言い忘れてしまったのですが,われわれも,専門分野で分からないことがあるので,外部の弁護士事務所さんにお願いしに行くではないですか。そうすると,窓口になってくださる方がいらっしゃる場合,何でもご自身でされなくていいと思うのです。例えば,独禁法,破産法の専門家が事務所内にいれば,その方を適宜,アサインしていただければよい。僕らとしてもその方が効率的なのですけれども,場合によっては窓口の弁護士さんが全部,自分でやろうとしたり,自分を通してコミュニケーションをしようとすると却って非効率になる例もあります。適材適所で事務所内の人をアサインし,チーミングを適切に出してくださる方が助かるといいますか,ありがたい。効率的にできる。そこはなかなか申し上げにくいことではあるのですけれども,たまに感じることです。

河井  チーミングがポイントですね。

野島 そうですね,はい。

河井  お二人に共通のところは,そこをうまくやってくださる方という感じですね。最後に,これからも,日本企業の国際競争力の強化のために法務機能がより強化

されていかなければいけないという方向性は,恐らくこれだけ日本企業がアウトバウンドM&Aを頻繁に行っていたら,次に来るものはPMIであり,次に来るものは経営管理ということに,当然,なるわけですから,そこを強化していく必然性は絶対にあるのだろうと思っているのですけれども,そのような中で,ぜひ桝口さんと野島さんに,日弁連や弁護士会に求めるもの,「こういう役割を果たしてほしい」というようなことを。突然のむちゃ振りで申し訳ないのですけれども,何かあれば,お願いできたらと思うのです。

桝口  ありがとうございます。このような法務機能の強化の報告書を取りまとめさせていただきましたので,これから公表させていただきますし,いろいろなところで周知をさせていただきたいと思っております。そのような中で,このような場にお呼びいただきまして,大変ありがたいと思っておりますし,「経済産業省としても,このようなことに着目しています」ということをいろいろな場で説明させていただきたいと思っております。

今日は,日弁連さんの場の中でご説明をさせていただきましたし,法務部門の方々が集まっているような場もありますので,そこでも説明させていただきたいと思っています。経営者の方々が集まるような場もありますので,「こういう法務機能に経営者の側から着目するということがすごく重要です」という話や,今日の話も大変参考になりましたので,「インハウスの弁護士さんと外部の弁護士さんの役割分担をうまくやっていくことがすごく重要です」という話も,ぜひしていきたいと思っております。様々な方法で周知をしていきたいと思っております。

経済産業省といたしましては,様々な立場の方とお話をさせていただきたいと思っております。ぜひ引き続き,弁護士会の方々との意見交換の場など,今日は京都でやりましたけれども,様々な場所にも弁護士会などがありますから,そこの中で話をさせていただくなど,今後とも意見交換などをさせていただくと大変ありがたいと思っております。以上です。

野島  私も似たような部分が多いのですけれども,今日このような機会を頂戴して,企業法務の実態をご説明する機会をいただいたり,あるいは「要望事項は何か」と聞いてくださって,すみません,大変失礼なことも申し上げたかもしれませんが,ふだんの業務で感じることをお伝えする機会をこのように持たせていただいたことは大変ありがたいので,感謝しております。

このような機会を,今後も折に触れ,持たせていただけるとありがたいですし,今後の,例えば新しい法律の改正等についても,正直,産業界にいて,「立法事実があるのか」と思われるようなところもあって,いろいろなところで確認させていただきながら,「われわれが気づかないところ,こういうところがあるんだ」という意見交換をさせていただきながら,全体を俯瞰する目で見ながら,産業界だけでは分からないところもあると思いますので,そのようなところの意見交換をさせていただいて,一緒に議論させていただくような場があるといいと思っております。これは,個社というよりは,もしかしたら経団連や経営交友会などの機関同士のお話の場の方が適切なのかもしれませんが,そのようなことを感じております。

河井  ありがとうございます。

では,最後に三村先生から,今日のこのシンポ全体をまとめて,何か一言,コメントを。

三村 私はインハウスになった比較的初期の弁護士だったこともあり,最初は,「インハウスに入る」などと言うと,「変わった人たち」と思われ,「秘密保持契約書を 1日 30 枚見たって,つまらないでしょう?」などと言われていましたが,私は,法律家がビジネスの中に入って法の支配を広げていけば,より良い世の中になるだろうと考えていました。私は「医療産業の中に法の支配を」というモットーを,インハウスに入ったときから思っていて,今でも言い続けています。私は 2005 年にGE

ヘルスケアに入ったときに「医療産業の中に弁護士が 50 人入ったら,世の中大分変わるんじゃないか」と思っていましたが,今はもう軽く 50 人を超えています。ただ,若い方が比較的多いので,その方々がもっと成長して組織の上位にいくようになると,もっと世の中が変わってくるのではないかと思っています。今は,自分が生んだ子供が大きく育ったような喜びを感じています。

その中で,昨年,経済産業省が企業における法務機能強化というテーマを取り上げてくださったおかげで,これまではインハウスの重要さについては法曹界だけの話題でしたが,マネジメント層がとても興味を持ってくださるようになり,今や「企業法務をどう活用していくのか」ということをマネジメント層が考えくださるようになりました。つい最近,一部上場のとても大きな日本企業が「弁護士をインハウスのトップに採りたい」と言って,いきなり取締役にするというようなことがありまして,「世の中,すごく変わってきたな」と思っています。そのような中で,今日の機会をいただいたことはすごくうれしいと思っています。私は,この後の余生を皆様と一緒に,日本社会を法の支配という観点から良くしていくために私たちに何ができるのかを考えていきたいと思っていますし,「インハウスに入ったものの,なかなかマネジメントが言うことを聞いてくれないので,どうしたらいいか」というような悩みを持つ若い世代の方々のご相談相手にもなれたらうれしいと思って日々生きています。今日は,このような機会をいただきまして,本当にどうもありがとうございました。

◆総括

本間  正浩  弁護士(東京/日清食品ホールディングス(株)/日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会小委員長)

河井 ありがとうございました。

それでは,最後に,日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会座長で,日清食品ホールディングス株式会社執行役員チーフ・リーガル・オフィサーである,東京弁護士会所属の本間正浩さんから,総括していただきます。

本間  本間でございます。総括ということですが,普通のやり方だと,今パネリス トの方々がお話しになられたことをまとめるということになるのでしょうけれども,これだけの方々がお話しになったことを私がまとめることも僭越でございますし, 私の能力を超えるところでございますので,特にここは日弁連業革の活動の一環と いうことで,今日のディスカッションと日弁連業革的な発想とをうまくブリッジす るというような形で,総括をさせていただければと思います。

ちなみに,私は,今ご紹介いただきましたように,日清食品ホールディングスC LO・執行役員でございます。多分,同等の日系企業でCLOというポジションに就いている弁護士は多分,日本全国で 30 人いるか,いないかくらいだと思いますが,一応そのような立場でございます。

まとめということで,思い切って形而上的なことと,目いっぱい形而下的なことを括弧でくくるというような形でお話をさせていただければと思います。

形而上のことですけれども,今日お話をいただいたことで,「法務は,ビジネス活動に貢献するんだ」「経営に入っていくんだ」ということですけれども,これをさらに大きな視点で言うと,「法務が社会における活動の一部になっていく」ということなのだろうと思います。どうしてもわれわれは法解釈学で勉強してきておりますので,六法全書があって,それを解釈する。その内容を詰めていくということで,いわば逆三角形のような形でどうしても発想しがちですけれども,「コロンブスの卵」ではないですが,今日お話しいただいたビジネス活動を含めて,実は,本来,社会にあるものは社会活動であり,ビジネス活動である。法務は,その1ピースといいますか,1つの,重要なファクターですけれども,ファクターでしかないという発想の逆転といいますか,そのようなものが恐らく重要なのだろうと思うわけです。

今日の午前中,別の分科会に出られた方もいらっしゃると思いますけれども,11の分科会がありますが,日弁連弁護士業務改革委員会としては,やはり社会にどれだけわれわれが入っていって,社会にどれだけの影響をもたらすのか。社会にどれだけ実際に寄与できることがあるのか。「法律はこうですよ」ではなくて,それが社会に対してどのような結果をもたらすのか。このような観点から業革を考えていきたいと,思っているわけでございます。今日の,ビジネス活動の一部としての,あるいは,ビジネス活動を支えるものとしての法務は,まさに,そのようなことなのだろうと思いますし,法解釈学の活動範囲は自ずから限界がありますが,ビジネス活動,社会活動といえば,その範囲が何十倍,何百倍に広がるわけです。そのような中で,法務や,弁護士あるいは法曹が活動していく。それを考えるだけで,われわれの仕事は,今の人数ではとてもやれないくらい広がるわけです。そのようなことが,まず恐らく出発点であって,今日の話と業革的な発想とのブリッジになるのかということが1つです。

もう1つは,もう少し今日のテーマに入っていきますけれども,経営が法務とどのような関係かといいますと,これも,法律事務所の弁護士をやっていると,なかなか気がつかないことですけれども,社会で何かをやっていく,ビジネスをやっていくことで,やはり一番重要なこと,キーになることは結果です。「法律はこうです」ではなくて,「法律がこうだから,こうなります」というところが,まさにビジネス活動の一部になるのだろうと思っております。正しいことを言うということではなくて,そのことによって,どのようにビジネスが動くのか,動かないのか。「これは悪いことです」ではなくて,悪いことを止めたという結果を出せるかどうか。これがビジネス活動ですし,特にわれわれ企業内弁護士の重要な仕事なのだろうと思うわけでございます。逆に,ビジネスを進めるという結果をどのように構成するか。あくまで法律的な知識はその基礎でしかなくて,重要なピースですけれども,そこで終わってはいけないのだろうと,今日の話を聞いて感じたわけです。

先ほど桝口さんのお話の中で,「法務機能は,パートナー機能とガーディアン機能である」ということが出たわけですけれども,若干具体的な例で,ちょっと自慢話のようになってしまうのですけれども,このようなことがありました。社内で非常に大きなプロジェクトがあって,それが経営会議にかかりました。そこで社長が,「これは法的リスクがあるんじゃないか。それから,レピュテーションリスクがあるんじゃないか」とい言いだして,非常に否定的な姿勢を示したわけです。そこで,私としては「いや,これは会社として絶対にやるべきプロジェクトである。社長の言う法的リスク,レピュテーションリスクは,それはそのとおりリスクがあります。ただ,それは,このようにしてコントロールしてみせます。なので,やらせてください」という話をしました。それで,社長と私で7,8分押し問答をしたあげくに,社長が最後に笑い出しまして,「おまえ,立場が逆だろう。オレの暴走を止めるのがおまえの仕事だろう」ということで,「それほどおまえがやれると言ってるんだったら,まあ,いいよ」ということで承認をもらったのですけれども。「失敗したらクビだな」と思いながら,そこまで言いました。これをパートナーと呼ぶのかどうかはともかくとして,まさに,すみません,自慢話的になって申し訳ないのですけれども,まず「会社として何をするべきか」「経営として何をするべきか」,そこから出発して,「じゃ,法的にどういうサポートができるのか」「リスクはある。リスクは,取れるのか,取れなのか」「じゃ,どうコントロールするのか」。このような発想で仕事をする。そのような言い方をしていただけると,ある程度具体的な像が分かっていただけるのではないのかと思います。

それから,ガーディアンですけれども,これは実は,失礼ながら,経済産業省の最初の報告書に私が楯突いたところですが,よく「守りの法務」「攻めの法務」という言い方があって,「ガーディアンは守りの法務であって,今までの日系法務部は守りをやっていた。ガーディアンをやっていた」という言い方があるのですが,私は,それは完全な間違いだと思っています。つまり,「企業を守る」という結果を出すものがガーディアンだと思うのです。ベン・ハイネマンの名前が何度か出ていますけれども,この人はGEの法務部の黄金時代を築いた張本人の一人ですけれども,彼などの本を読めば分かりますけれども,結果を出せるかどうか。つまり,「正しいことを言ったか」ではなくて,「正しいことを会社にさせたかどうか」,これがガーディアンだと私は思っているわけです。したがって,会社のパートナーにならなければ,ガーディアンなどになれるわけがないのです。実は,パートナーの方が楽です。なぜなら,ビジネスがやりたいことを,やれるように考えるわけですから。ビジネスは喜んでサポートしてくれます。しかし,ガーディアン機能は,会社を止めること,ビジネスとしてはやりたくないことをやらせるのがガーディアンです。そのような意味で,結果へのコミットメント,これがわれわれの仕事のキーであり,まさに企業法務の本質であり,経営に関与する,ビジネスに関与するものだろうと思っているわけです。

これもまた自慢話的な例になって申し訳ないのですけれども,あるプロジェクトがあって,社長は絶対にやりたかった。確かにこれをやると,すごくビジネス的にはいい数字が出るというものがありました。ただ,やはりリーガル的な観点,それから,レピュテーションの観点から,私は,これは絶対にやらせられないと思いました。かなりいろいろな準備をしまして,15 ページくらいのパワーポイントをつくって,まなじりを決して,社長室に行ったわけです。正直に言って,これを認めてくれなかったら私は「辞表を出そうか」と思っていたくらいですけれども。行って,もちろん秘書を通してアポイントメントを入れていて,話題は何か,は,言っていたわけですけれども,社長室に入るや否や,社長が「あの件だな。やっぱりだめか」と言われまして,「だめです。」「そうか。」。それで終わりました。プレゼンを始めさせてももらえなかった。そのようなものです。正しいかどうかではなくて,やはりビジネス部門が私たちの法務部の仕事に対して,「これだけビジネスを促進するために一生懸命考えて,リスクも取るし,リスクをどうやってコントロールするかを一生懸命考えている。そのおまえが言うんだったら,やっぱりだめなんだな」という信頼を寄せているということなのです。だから,パートナーになれないで,ガーディアンなどになれるわけがない,と私は思う次第でございます。

何を言いたいかというと,もとに戻しますが,決して「正しいことを言う」ということではなくて,ガーディアンでもパートナーでも同じですけれども,企業に対して,どのような結果を出したか,何をさせたか,あるいは何を食い止めたか。これこそが,少なくとも法務部門の仕事であるし,それがグローバルな法務機能の果たしている役割ではないのかと私は思うわけでございます。その前提の上で今日の議論があると私は理解しております。

ちなみに,パートナー機能とガーディアン機能の関係というところで,最初に河井先生からご紹介いただいたのですけれども,今日の資料集の 241 ページから 243ページくらいに記述がありますので,読んでいただければと思います。

最後に,ものすごく形而下的な話に行きたいと思います。先ほど,最後のテーマとして外部事務所との関係が出てきました。これは,実は日本に限らず,ドイツに調査に行っても,フランスに行っても,口をそろえて,よく言われるのですけれども,企業法務が充実する,企業内弁護士が増えるということになると,外部の先生の仕事,自分たちの仕事が減るのではないかという観測がありまして,それが法律事務所の先生方の企業内弁護士に対する反感,あるいは阻害要因に,要因になっているということが言われます。

ただ,これは全く事実無根の議論でございまして,基調報告書の 228 ページと 229ページにありますけれども,例えば,アメリカの調査では,規模が大きい法務部門ほど,弁護士報酬が増えているのです。2014 年の調査ですけれども,アメリカ企業で,企業内弁護士が2,3人の法務部門では,外部に支払っている弁護士報酬が,所属する企業内弁護士1人当たり 22 万ドル。これもすごいですけれど。これが 26

人以上の法務部門になると,平均して 49 万ドルを払っているのです。わが国でも,

2016 年の経営法友会の調査によると,「弁護士の利用機会の変化」という質問に対して,「増加している」という企業が 56.5%,「減少している」企業は 4.5%しかありません。さらに重要なことは,「増加している」と回答した割合は,31 名以上の部員を抱えるメガクラスの法務部門で 70%と高い。ところが,小規模,つまり,5名以内の法務部門において最も低い結果になっている。しかも「増加している」との回答は,法務専門部署がある企業で,それが課レベルの部署の場合での 68.9%が,「外の先生への仕事が増加している」。部レベルだと,これが 61%,少し減りますけれども,そのような格好でございまして,要するに,むしろ企業内法務部門が充実すれば,外の先生方に対する仕事が増えていくという,あまりこれは経営者の方々に言いたくないのですけれども,それが,現実の調査としてあらわれているわけです。

これは,ある意味当然でございまして,先ほど,野島さんでしたか,あるいは三村さんも同じことを言っておられたと思うのですけれども,「仕事をつくるのが仕事」「社内を見ながら,どういう問題があるのかを拾い上げるのが仕事だ」ということですので,拾い上げる人間が増えれば増えるほど,あるいは,企業法務部の能力が充実すればするほど課題がもっと見つかりますので,当然,外の先生方に対する仕事は増えていくということでございますので,何とぞ,企業内弁護士にあまり反感を持たれずに,これはウイン・ウインでございますので,そのように考えていただければと思うわけでございます。

もう1つ。信頼ということ。要するに,逆に言うと,それは法務の専門性に対する信頼というよりも,「もちろん法務の専門性があるから,正しいことを言っている」という信頼ではなくて,「法務として会社に貢献している」ということに対する信頼なのです。なので,社内では,法務の専門性があるかどうかは,やや二の次になります。しかし,外の先生方との関係においては,これとは異なります,われわれといいますか,企業内法務部門は,まさに専門性において外の先生方を評価できます。したがって,専門性を持っていただければ,それはそのものとして,きちんと評価します。「ロータリークラブの仲間だから」「ゴルフ仲間だから」などということではなくて,専門性を専門性として,われわれは評価するのです。その意味において,中堅の先生,これから自分の専門性なり能力を高めていただこうという先生にとって,企業内法務部門が充実することは,まさにチャンスだろうとご理解いただきたいと思います。ただ,その反面があるわけでございますが,それは,武士の情けで,口に出さないでおきましょう。

そのようなことでございまして,形而上的な意味で,われわれ法曹が,社会の中で,より重要な,あるいはより大切な地位を占めていく。目いっぱい形而下的な話でございますが,弁護士として,事業として,業務として,ウイン・ウインの関係をつくるためにも,企業内法務,企業内弁護士,あるいは企業法務というものの発展の重要性は,弁護士社会全体にとって極めて重要な要素になっていくということをぜひご理解いただきたいと思います。そのような中で,今日の議論があるということで,最後の総括といいますか,基礎になる部分を申し上げました。

ちなみに,これに引き続いて,地下1階で,業務改革シンポジウムの全体会が開かれますので,ぜひご参加ください。それから,アンケート用紙は,ぜひご記入の上,提出をお願いいたします。次回の業革シンポのときに,私たちが小委員会としてやれるかどうかは分かりませんけれども,特に自由記入欄はいつも非常に,参考にさせていただいておりますので,ぜひご記入いただければと思います。

最後に,お忙しい中,京都までおいでいただいて,非常に貴重なお話をいただいたパネリストの方々に盛大な拍手をお願いいたします。

(終了)